5年前の春、大手ガス機器メーカーを辞めた。営業担当常務で、役員報酬は1400万円だったという。「カリスマ性のある経営者で、多くのことを学んだ半面、会社のための経営改善より世襲制を優先されたので、腹をくくったんです」と、光武(みつたけ)育雄さんは振り返る。
企業戦士として30年、販売部隊の先頭に立って“会社”の利益を追求してきた。だから人生の第2ステージは、会社ではなく“社会”のために使おうと考えた。そんな彼のアンテナに引っ掛かったのがNPO法人による活動だった。
光武さんには、重度の障害を持つ娘がいる。すでに成人の齢を迎えて久しいが、親としての責任を果たしてこられたのは、地域社会の助けもあったからだ。「どこかで恩返しを」との思いがあった。
「退職してから、ヘルパー2級の資格を取得。その際の講習に座学と現場研修があったのですが、高齢社会の生活現場では介護保険だけではカバーできない困りごとが見えてきたんです。重たくて運べない、高くて届かないなどの隙間を誰が埋めるのか。これらを団塊の世代で解決してあげようと……」
そこで光武さんは2003年2月、会社の先輩と後輩に声をかけ、それぞれが300万円ずつ出資してNPO法人「御用利きと出前授業」を立ち上げた。その目的は、お年寄りが暮らしやすい町づくりであり、体力と技術のあるミドル(中高年)たちへの職場の提供である。
NPOのシステムが見事だ。サービスを利用したい場合は、まず5000円分の「安心・住マイルチケット」を購入。作業ごとに時間単価が決められていて、1時間の基本料金を1500円とし、プラス交通費500円を支払う。これで換気扇の掃除や庭の草とりなどをしてもらえる。一方、仕事をする側の有償ボランティアは、1500円のうち1200円を報酬として受け取る仕組みだ。
「最初は、私たち3人が給料として毎月20万円をもらい、創業資金を食いつぶすまでには黒字化しようと考えました。けれども半年ぐらいは、事務所で閑古鳥が鳴いていました。電話が鳴り、人が訪れるようになったのは、地元紙などのマスコミに取り上げられてからです」
すでに会員は1000家族、有償ボランティアもリタイア中高年を軸に90人に。06年度の事業収入は約4000万円。「お手伝い家族としてのミドル人材センターを目指し、事業系NPO法人として1億円到達」が当面の目標だ。