ウイルスと人間との接触が頻繁になった
コレラやペストは克服できたのに、どうして新興感染症が次々に誕生して人類を苦しめるのか。
新しい感染症が続々と出てくるのは、人類が野生動物の領域に踏み込んでいったからだ。新興感染症はウイルス性のものがほとんどだが、病原体となるウイルスの多くはもともと野生動物を宿主として昔からあった。たとえばエボラウイルスやSARSコロナウイルスはコウモリ、HIVウイルスはチンパンジーが疑われている。かつては野生動物が危険なウイルスを持っていても、人間社会との接触がなかったので問題はなかった。だが人口が増えるとともに接触が起きるようになり、そこで感染が起きて人類の脅威となった。
じつはSFTSウイルスもそうだ。日本でも山間部や周辺部の開発が進み、シカが人里に下りてくるようになった。このシカは地域によっては、SFTSウイルスに対する抗体を高率で持っていて、マダニとの間で感染のサイクルを形成していないか疑われている。
地球温暖化の影響もある。14年、日本でも70年ぶりに国内感染が確認されたデング熱は、ヤブカがウイルスを媒介する。気温が上がると繁殖効率がよくなり、生息域が広がる。そのため中南米やアジアの都市で感染者が増えた。
航空機の発達で、国際間の移動が活発になったことも無視できない。各地で人に感染するようになったウイルスが、飛行機に乗って世界中に運ばれる。これがパンデミックが起きる構図だ。
診療面も、昔と事情が違う。コレラやペストは細菌性の感染症で、抗生物質による治療が有効だ。ところが新興感染症の多くはウイルス性で、抗生物質が効かない。さらに、エイズのように先進国で感染者が増えている病気は薬の開発が進むものの、途上国に患者が集中する感染症はネグレクトされて、お金が流れていかない。
今後も人間社会が膨張を続けるかぎり、新しい感染症は誕生し続ける。まだ見ぬウイルスの中に、致死率が高く、感染性が強いものが潜んでいる可能性もある。人類と感染症の闘いは、これからが本番なのかもしれない。