エッセイスト山本夏彦の代表作に『世は〆切』がある。締め切りがあるから世の中はまわっているのだ、という逆説的な真理を言い当てた警句である。それにならって、僕が流行らせようとしているのが「世は口実」という言葉だ。

本音は「この女とセックスしたい」であっても「歌舞伎を観に行こう」と口実を設けることで、やましい思いをせずに二人きりになれる。誘われる側も「わたしは伝統芸能に触れたいだけ」と言い訳できる。つまり「不本意ながら要求を呑む」ポーズを取れるのだ。

困ったことに、昨今は本音で生きることこそ美徳であると考える人が少なくない。だが、それは間違いだ。

(構成=面澤淳市)