理論を実践するための4つの発想法

アイドルエコノミーの主要プレーヤーを観察していると、私が起業家養成講座やイノベーション講座で教えてきた限界突破の発想法を駆使していることに気付く。

【アービトラージ】

もともと金融用語で、為替差や金利差など同じ価値を持つ商品の価格差を利用して、利鞘を稼ぐ取引のこと。アイドルエコノミーにおけるアービトラージは情報格差で鞘を抜く。安くて良いものを提供してくれるところと高く買ってくれるところをマッチングして、手数料を稼ぐわけだ。

【固定費に対する限界利益の貢献の最大化】

売上高から変動費を引いたものが限界利益。「固定費に対する限界利益の最大化」とは、要するに操業度を上げるということ。たとえばクリーニングの巨大な機械は毎日忙しく稼働してはいない。むしろ空いていることが多い。したがって、複数のクリーニング店が曜日や時間などで融通しあうことができれば機械は一台あれば足りる。こうした工夫が「固定費に対する限界利益の貢献の最大化」であり、固定費がかかる企業にとって短期的な経営改善法の一つだ。実際、大阪には20年前からそれを実践しているクリーニング店があるし、店舗も機械も持たずにクリーニング工場のアイドル(空いている設備)と宅配業者を活用して、宅配クリーニングサービスを展開するネット事業者も登場している。

【ダイナミックプライシング/リアルタイムプライシング】

日比谷の映画館で、1500円の映画の席が7割しか埋まってないとしよう。空席はアイドルである。「固定費に対する限界利益の貢献の最大化」の理屈でいえば、そのまま上映するより、値引きしてでも残り3割の空席を埋めたほうがいい。そこでGPS(全地球測位システム)で見て近隣を通行中の人に「10分後に映画が始まります。今なら500円で入場できます」と5分間のタイムセールを行う。これもアイドルエコノミーの典型的な手法だ。

時間の関数で価格設定を変えるのがリアルタイムプライシング。需給状況に応じて価格を変動させるのがダイナミックプライシング。さらにGPSを活用することで、商圏内の顧客に対して「あなただけに」というナローキャスティング(特定のターゲットを狙って狭い範囲で効率的に行う広告や販促活動のこと)が可能になり、より吸引力が高まる。

【逆オークション】

買い手側が提示した希望価格などの情報に対して、売り手側が入札し、最も安い価格を付けた売り手が販売できるという取引方法だ。

面白い事例がある。ある食品会社のマネジャー氏、自分が担当するレトルト食品の売り上げ回復の宣伝アイデアに行き詰まって、日本のクラウドソーシング大手のクラウドワークスにこんな逆オークションを持ちかけた。

「あなたが○○のマネジャーだったら、どんな宣伝広告を打ちますか。採用された方は報酬5万円」

そのマネジャーが上司に相談しないで正当化できる出費は5万円までだったが、これで主婦層を中心に全国からアイデアが殺到した。世の中には暇と能力を持て余している主婦は大勢いて、クラウドワークスの登録者には海外出向中の日本人ビジネスマンの奥方が多いとか。逆オークションを活用すればそういう人たちのアイドル(時間と能力の空き)を低コストで動員できる。