女性の外交員が代名詞だった時代も今は昔、生命保険はさまざまなチャネルでの購入が可能だ。車や住宅並みの高額商品。どこから、誰から購入するかは重要だ。しかし、それ以前に自分で考えておくべきこと、何か忘れていないだろうか……?

「さすがプロだ」と安心させる常套句

モノやサービスを売るに当たっては売り手も必死。それなりのテクニックもある。賢い消費者になるためには、保険に限らずある程度相手の手の内を知っておくことも必要だろう。

外資系保険会社の営業マンだった阿野頼久さんは、セールスの常套句を叩き込まれた。想定問答集で徹底的に訓練されるという。内容を再現していただくと、次のような具合だ。

お客様に会ったらまず、「保険の営業マンにネガティブなイメージはありませんか?」と聞き、「強引に訪問されたり、売り付けてきたり、嫌ですよね」と同情する。すると、相手は嫌な経験を話し始めるので、不満を全部吐き出させ、多少の親近感を感じさせて今度は不安を煽る。「今どんな保険にご加入ですか」「来年、保険料がグンと高くなりますけど……」「60歳になったら特約はすべてなくなりますけど説明は聞いていますか?」「えー聞いてないんですか!」「信じられない……」としばし絶句。相手は不安に追い詰められ、営業マンのペースに。そこで丁寧にPCを駆使して理詰めで説得。

「子ども2人なら教育費が2000万以上、老後のお金が1億円足りない。年金は65歳からなので、60歳で定年退職してからの無収入の5年間どうしますか」……この方法で年収1億円、という外交員もいる。

大手生保、代理店を経て、現在は保険の有料相談、執筆、講演などを行っている後田亨さんは、こんなテクニックを耳にしたことがあるという。医療保険の相談に来た消費者に、「医療保険はいらないですね……」と代理店の担当者。

「健康保険の高額療養費によって、ひと月の医療費には上限がある。医療保険の必要性は低いと思います」。そう言われると、「さすがプロだ。この人は信頼できる」と思ってしまいそうだ。

しかしそれは、「医療保険で得られる手数料がそれほど多くないから」(後田さん)。実際、医療保険を買いにいったはずの消費者が、貯蓄になるからと別の保険を勧められる例も。さらに阿野さん、後田さんが指摘するのは、不安を煽って保険を買わせる「不安商法」(阿野さん)。

「自己資金ではどうしようもないこと、いつ起こるかわからないことにだけ保険を使うべき。がんになったら? 要介護になったら? 公的年金が減ったら?……と、どんどん不安の暗示にかけられるが、不安など挙げ始めたらキリがない」(後田さん)

非論理的とはわかっているが、保険を減らそう、やめようと思うが、やめたら病気になるのでは、という呪縛にかかる人もいる。「論理じゃないからこそ、論理に戻らなければダメ。原則で線を引かないと、果てしなく揺らいでしまう」と、後田さん。清水 香さん(生活設計塾クルー取締役、FP)も、「これも不安、あれも不安と足し算していくのではなく、公的保障もあるし、勤務先からの給付もあるし、貯金もあるからこの程度が適当、と引き算で考えたほうがいい」と助言する。