もう一緒にいられない――互いにそう感じている夫婦は、確かにゴマンといる。ただ、衝動的にせよ、用意周到にせよ、別れて即“一人勝ち”できるほど、世の中簡単にはできていないようだ。

年金の仕組みをよく理解していなかった

「もういいかな……そう思ったんですね、そのときは。子どもたちも大きくなったことだし、もう別れてもいいかなって(笑)。その数年前に、離婚しても年金を分割して貰える制度ができていて、旧友に聞いたら、妻も半分貰えるようになったんだから老後は大丈夫よ、って言われて」

※写真と本文は関係ありません。

都内在住の松田純子さん(48歳、仮名)が離婚したのは2011年2月。東北の巨大複合災害が勃発して世の中が騒然とし始める直前だ。9つ上の元夫は大手製造メーカーの幹部社員で、離婚当時は55歳。就職したばかりの長女が23歳、長男は私大に通う21歳。郊外の持ち家に家族4人で暮らしていた。

年金の離婚分割制度がスタートしたのは07年4月。厚生年金と共済年金のみを対象として、婚姻期間中に納められた元夫の年金が老齢厚生年金として決定される際、夫婦の合意を前提に、最大でその2分の1を離婚した元妻に分割するというものだ。婚姻が継続されていれば別居期間中の年金も分割の対象となる。

また、離婚時に手続きをしておけば、裁定請求を前提に、分割決定した年金が65歳になった時点で国から元妻に直接振り込まれる。ただし、国民年金、企業年金、年金保険などは対象外。また、元夫が独身時代に納めた年金も対象外だ。もっとも、当事者にならぬ限り興味も湧かないのか、制度新設からすでに8年過ぎた今も、その詳細が広く一般に浸透したとは言い難い。

大学を卒業して22歳で就職した元夫が、純子さんと離婚した後も同じ会社を勤め上げて65歳で定年となれば、43年間にわたり年金を納付したことになる。が、結婚当時の夫は32歳。独身時代の9年分は分割分には算入されず、離婚した55歳までの33年から9年を差し引いた24年間が婚姻期間となる。

そのため、純子さんとの按分対象となる夫の老齢厚生年金は24年を基に算出される。このまま独り身を続けるとしたら、彼女の老齢基礎年金に加算される年金額は、その24年分を按分した金額の範囲内に留まるということだ。