他人が家に来ると老親は急に「元気」になる

調査では認知症の有無をチェックするため本人に生年月日や今日の曜日、体の状態を知るため「ベッドから自力で起き上がれるか」、「食事は自分で摂れるか」といったことを調査員から聞かれます。ひとつでも重い要介護度を勝ち取りたい子としては、介護サービスの助けを必要としている自身の状態をありのままに語ってほしいところですが、実際はそうならないことが多い。

なぜか?

『鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』(ダイヤモンド社)。ケアマネージャーや介護業界の人が書いた本と異なり、あくまで親をお世話する介護初心者の子(ユーザー)の視点で、介護申請の方法から施設探しまで解説してくれる。

人間は誰しも他人に弱味を見せたくありません。私の父を担当してくれたケアマネージャーによれば、認知症の人も初めて会った人には突然スイッチが入ったように、まともに会話できることがあるとか。自分を良く見せようと頑張るわけです。

なかには調査員の同情を買いたいがために普段の状態よりも悪く言う人もいるそうですが、頑張って良く見せたい人の方がやはり多い。りんこさんのお母さんも私の父も、そのタイプでした。「親の心、子知らず」という言葉がありますが、この場合は「子の心、親知らず」。要介護度をできれば重くしたいという子の期待を親は目の前で裏切ってくれるわけです。

▼「即座に立ち上がれる」はずないだろ!

りんこさんは、自身の介護の体験記『親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』で、そのやり取りを赤裸々に語っています。その部分を一部抜粋します。

物腰の柔らかな、優しそうな調査員さんが登場した。よっしゃ、イケそうだ!

これから母への74項目にもわたる聞き取り調査を行って、心身の状態や暮らしぶり、どんな支援が必要かを確認する作業を行うのだ。

さあ、母よ。自分がどんなに不自由しているのかをとうとうと訴えるがよい!

「じゃあ、始めますね~。お母さま、お膝は伸ばすことができますかね? あら、お上手。痛くはないですか? 痺れもないですね?」
「はい」

……!?
ちょっと触っても、痛い痛い言ってんのはどこのどいつじゃ!

「歩行についてお伺いしますね。何かにつかまらないと歩きにくいですかね?」
「いえ、自分で歩けますよ」

いやいやいやいや! そこは「ひとりでは危ないです」が正解でしょう?

りんこさんのお母さんは要介護状態が緩やかに進行するケースで、要支援1か2かをめぐる攻防。要支援2を狙うりんこさんと、その思惑に反する対応をするお母さんの心理戦が書かれています。

私の父の場合はこうでした。

突然寝たきり状態になった時は認知症は発症しておらず、生年月日も今日の日付もスラスラと回答できた。ここまではOK。が、体の状態を聞かれる段階になり「介助があればベッドから立ちあがることができますか?」という質問をされると即座に「はい」と答えたのです。

「おいおいおい!」となりました。

確かに立ち上がることができなかったわけではないですが、時間をかけて私が必死に体を支えてなんとか立てる状態。だから、即座の「はい」が理解できなかったわけです。