トレーニングは同じでも結果は遺伝子で異なる
才能、環境、指導者……様々な条件の中で、一握りの天才をつくるものは何なのか。
同じトレーニングをしても、それに対する筋肉の反応は人によって異なる。私は、中距離走の大学代表選手としても活躍してきたが、遺伝子検査の結果、有酸素トレーニングを行うと筋肉に効果が出やすいという遺伝子をもっていることがわかった。“トレーナビリティ(訓練可能な性質)”という言葉があるが、これは訓練に対する反応の度合いを表す。
私が大学の800メートル走の選手だったとき、カナダ代表の選手よりも20秒遅かった。これは、800メートル走では、雲泥の差を示す。しかし、彼が行っている訓練と同じ訓練をやり始めると一気に彼を追い越し、1分52秒の差をつけた。彼は同じ訓練をしてもまったく伸びず、現状維持のままだった。そのときに初めて遺伝子検査をして、私には訓練に速く反応する遺伝子が複数あることがわかった。運動遺伝子をもっているかどうかを知ることはそういう意味で非常に重要だ。その個人のもっているポテンシャルを最大限に生かすことができるからだ。勝てないからと最初にあきらめなくてよかったと実感し、訓練が結果につながる体質を遺伝子検査で調べることの意義を悟った。
このことからも、国を代表するようなアスリートは、どのようなトレーニングがその人にとって効果的なのかを見極めるために、遺伝子の検査をする価値があると考えている。
以前、日本の相撲稽古を取材したことがある。そこでは、古くからの方法を皆が同じように行っていたが、これは間違っている。もし本当に各関取の性質を生かすのであれば、遺伝子検査に基づいた個人別のトレーニングを行うほうがずっと確実に横綱を輩出できる。瞬発力のある速筋繊維をもつ関取と遅筋繊維をもつ関取に対して、同じトレーニングを課すのは、時間の無駄だ。