13年春、都内のターミナル駅近くにあるソープランドで、パトカーが駆けつけるちょっとした“事件”が起きた。

16年前から1日おきに人工透析を受ける内澤武英氏(仮名)は70歳。大手ゼネコンの元設計士で、妻を10年前に亡くしてからは月に一度のソープ通い。店外デートする馴染みのソープ嬢もいる。内澤氏は半年前に軽い脳梗塞で病院に担ぎ込まれ、入院生活を送ることになった。週刊誌のヌードグラビアを見ると、ソープ嬢の顔がちらつく。パジャマの上にコートを羽織って、ソープランドにタクシーで乗りつけた。警察に捜索願を出した病院は息子から心当たりの行き先を聞き、ソーシャルワーカーがパトカーでソープランドへ直行。内澤氏は個室に入ってプレーを楽しむ直前、店の支配人がやってきて、病院に連れ戻されてしまった。

内澤氏が病院を無断外出してまでソープに駆け込んだ胸の内を語る。

「人工透析の身では近い将来のこともわからない不安がずっとあった。ソープ嬢と肌を触れ合っているときはそうした日常を忘れられますし、若い女性と裸で同じ空間にいられるだけで満足できる。本当の恋愛でなくてもいいんです。女性の生身の肌に触れられるスキンシップは心がほっとします」

年を取って死期が近づいてくる怖さ、寂しさから異性の肌の温もりを求めているという説もあるが、そもそも人は何歳までセックスするものなのだろうか。前出の日本性科学会は、有配偶者について「40~70代 セクシュアリティ調査」(00年)を行っている。それによると、配偶者と月2~3回以上のセックスをしている比率は、男性が60代前半で40%(女性26%)、60代後半で27%(女性28%)、70代前半で13%(女性12%)、70代後半で16%(女性17%)となっている。これが事実なら、今どきのセックスレスといわれる若い夫婦以上にセックスをしているかもしれない。

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配偶者との性交頻度(%)

調査・分析を担当した田園調布学園大学元教授の荒木乳根子氏は、こう解説する。

「男性は60代半ば、女性は50代半ばで性欲の減少が目立ちます。男性はED(勃起不全)、女性は更年期の急激な女性ホルモン減少による膣の萎縮が、要因の一つと考えられます。老年期ほど肌の触れ合いが重要です。触れ合いがあって初めて言える、伝えられる言葉がある。夫婦のセックス関係を維持するにも挿入して射精をすれば満足という男性の考え方を改める必要があるでしょう。女性の体の状態を把握し互いに思いやるセクシュアルなコミュニケーションが大切です。その結果、残り少ない人生を悔いのないものにしてくれると思います」