「笑い」は相手との距離を縮める最も有効な手段のひとつ。ユーモアの極意を探ってみよう。
自分の失敗談は誰も傷つかない
人を面白がらせるには、上田氏いわく「相手の心に入っていかなければいけない」。そのためにはまず自分がどんな人間であるかを伝えるエピソードトークは、有効な手段だ。
「若い頃、上司に叱られてしょんぼりしていた同僚がいたんです。エレベーターで一緒になったので、後ろから彼の尻をギューッとつかんで『大丈夫! 元気出せ!』と耳もとで囁いたんです。で、振り向いたのが全然知らないお客さんでね。あんまりビックリして、謝るタイミングを失っていたら、その人、隣の部に案内されて、応接セットに座ったんです。ご丁寧に、僕の目が合う位置に。しばらくしてから応対していた隣の部長がやってきて『君、こちらの専務さんの尻をイヤというほどつかんだらしいじゃないか。おかげで元気が出たそうだ』。いや~、あのときは顔から血の気が引きました」
上田氏の口からはこのような笑える体験談がどんどん飛び出す。特に豊富なのが失敗談だ。話の中で強調されるのは、いかに恥ずかしい思いをしたか、ということ。自分の失敗やダメな部分を誇張・脚色するのは、誰にも迷惑をかけずに、笑いをより大きくすることができる。何より話し手の立場が上であるほど、聞いているほうは親近感が湧くという効果もある。
さらに聞き手の胸襟を開く方法が「とことん聞く」だ。
「昔、かなり自己主張の強い方が取引先にいましてね。私は一方的に話を聞くだけ。だけどその人の奥さんと会ったときにこう言われたんです。『上田さんって話が面白いんですってね!』。そんなはずがない。だって彼が10だったら、僕は1ぐらいしか話さないんだから。でも、その1を面白いと感じたらしい」