突然死に結びつく「胸部大動脈瘤」。多くは無症状で進行し、いったん破裂すると状況は一変する。胸や背中の激痛、血圧低下でショック状態に――。

胸部大動脈瘤は血管の病気。血液は左心室から押し出されると大動脈を通って全身に運ばれる。まずは上行大動脈を上昇し、弓のように180度カーブしている弓部大動脈を通過。ここで頭頚部や腕へ行く動脈が枝分かれし、カーブ後は下行大動脈、そして腹部大動脈へと巡る。

瘤(こぶ)と聞くと、多くの人は袋状の瘤、つまり嚢状(のうじょう)を思い描くが、そのタイプのほかにもう1つ、血管が全体的に膨らむ紡錘(ぼうすい)状がある。

この瘤のできる場所によってはサインが出て、そのサインに気づくと予防も可能である。瘤が気管支を圧迫すると喘鳴(ぜいめい)や咳などが出る。また、肺炎を何度も繰り返す。ほかに、声帯に関係する反回神経を圧迫すると、声がかすれたりしわがれ声に。食道を圧迫すると、物が飲み込みにくくなる。

ただし、このサインに気づいて助かった人もまれにはいるが、多いのは健康診断などで偶然発見されるケースである。発見された胸部大動脈瘤が直径5センチ以上であれば手術適応となる。それ以下であれば半年に1回の検査で経過観察。

胸部大動脈瘤は破裂すると突然死に結びつく。とはいえ、前もって発見され手術を受けた場合でも、日本の医療施設での平均死亡率は10~20%となっており、手術の難しさがうかがえる。

この場合の手術は胸部大動脈瘤部分を人工血管と置き換える置換手術で、手術を成功に導いているのは医師の技量と人工血管の進歩である。

用いられる人工血管はすでに100年以上にわたって研究が行われ、今日の「ダクロン」に到達した。化学繊維の布で編んだもので、外側はタンパク質でコーティングされているので、血液の漏れは少なくなっている。

周囲のタンパク質は置換手術後2週間くらいで溶け、それにかわる組織が自然にできて、人工血管はもともとの血管のように働く。手術時間は約6時間。

この置換手術以外に、「オープンステント」と「ステント」を用いる方法がある。これはともに、ステントという形状記憶合金を動脈瘤の部分に留置する方法で、オープンステントは開胸後、大動脈瘤の心臓側にステントを縫いつけ、反対側は縫いつけずにそのままにしておく術式。ステントはカテーテル(細い管)を脚のつけ根の動脈から瘤にまで入れて、ステントを留置しておく術式である。この場合は開胸の必要はない。が、ステント治療にはまだまだ問題点を指摘する声もあり、充分に話し合って最善策を選択すべきである。

 

食生活のワンポイント

胸部大動脈瘤の予防には、まずは50歳を超えたら胸部のCT(コンピュータ断層撮影)だけでも年に1回は撮るべきである。

そのうえで、原因の多くは「動脈硬化が基礎にあるケース」なので、動脈硬化のリスクファクターである高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などが関係している。そのリスクファクターを抑えるには、食生活で次のことをより多く取り入れてほしい。

●EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)を摂取しよう。

EPA、DHAともに青背の魚に多く含まれている必須脂肪酸のひとつ。食品から摂る必要があり、悪玉コレステロールの酸化を抑えたり中性脂肪を減らして血栓をできにくくし、血液をサラサラにする。動脈硬化を防ぐので血管の弾力性が保持される。高血圧、高脂血症、糖尿病も防ぐ。

●ポリフェノールを積極的に摂取しよう。

抗酸化物質のポリフェノールは、植物の色素成分。ブルーベリー、赤ワイン、マリーゴールド、ホウレンソウ、アンズ、ピーマンなど、色の濃い物により多く含まれている。