社長の仕事は「『あさって』を考えること」

豊田章男社長を中心に、事業の“社長”である副社長6名が、今後のカギを握る。(ロイター/AFLO=写真)

13年4月からスタートした新体制では、北米、欧州、日本の先進国を担当する「第一トヨタ」、中国やアジア、アフリカなどの新興国を統括する「第二トヨタ」、高級車ブランド「レクサス」を担当する「レクサスインターナショナル」、そしてエンジンなどを開発する「ユニットセンター」の4つのビジネスユニット(事業部門)に分け、現場に近いそれぞれの副社長に大きな権限と責任を与えている。

豊田社長は「それぞれの事業責任者の副社長はいわば“社長”だ」と強調する。さらに、「1人が全部の事業を把握するのは健全ではなく、より現場に近いトップが現地現物を見て判断し、迅速に決断するのが理想の経営だ」と説く。

豊田社長も「決断は3秒以内」というルールを決め、スピーディな決断を心掛けている。一般的に社長が最終判断を下すのは、社内でも熟慮を重ねた案件が多いため、決裁のタイミングが少しでも遅れると、相手との重要な交渉などが後手に回ることもあるからだ。

副社長の中で最年長は経産省出身で人事、経理、渉外などを担当する小平信因氏の64歳。最年少は第一、第二トヨタの技術全般を担当する加藤光久氏の60歳。57歳の豊田社長よりも全員が年上の“先輩”たちである。火曜朝イチの会議では豊田社長は率先して話を切り出さずに、「なるべく聞き役に徹する」という立場を貫いている。

社長就任1年目の10年1月には「存亡の危機」ともいえる米国での大規模リコールが発覚し、危機管理の対応が遅れたことで海外メディアからも集中砲火を浴びた。米議会公聴会にも出席し、議員からは厳しい追及を受け、従業員の前では涙を見せたこともあった。豊田社長は、多くの困難に直面した中で「現地現物でのコミュニケーションの重要さ」とともに、「聞く耳を持つ」謙虚な姿勢を示す大切さも同時に学んだようだ。就任時、豊田社長は「現場に一番近い社長でありたい」と抱負を述べたが、「この4年間は多くの苦難に直面し、大変厳しい時間を過ごしてきた」と振り返る。だが、円高が修正されると5期ぶりにトヨタ単体が黒字転換し、「やっと前を向いて進むことができる」とも話す。

では、「“社長の仕事”とは何か」という私からの問いに、豊田社長は、「『あさって』を考えること」と答えた。豊田社長の「あさって」とは、「今日、明日の稼ぎにつながることは副社長に任せ、社長の役割は、持続的成長のために『もっといいクルマ』を追い求め、終わりなき航海を続けること」だという。「もっといいクルマ」とは、今までのトヨタになかったようなクルマをつくりだすことなのだろう。

12年12月、トヨタの最上位車種、クラウンの新型発表会では、豊田社長自ら自信を持って、衝撃的な「ピンクのクラウン」を発表し、大きな話題を呼んだ。これは、「ワオ!(驚き)」を感じさせろと、豊田社長が部下に命じてでき上がったものだ。豊田社長は就任以来、「もっといいクルマづくり」を掲げ、社内に訴えてきた。この言葉には、社業のことだけではなく、モノづくり、人づくりを通じて日本がもっと元気に“よくなる”ためのシナリオを描こうという意味が込められている。

豊田社長にとって週1回の朝の会議は、「もっといいクルマづくり」の軸がぶれていないかをチェックする、大切な時間なのだ。

(写真=ロイター/AFLO)
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