暑いと汗をかくのは、ごく自然なこと。ところが、その自然な量以上の汗をかく人がいる。「フローリングの床を歩くとペタペタ音がして足跡がつく」「試験中に答案用紙が汗で濡れて破れてしまう」など、汗が原因で悩んでいる人は多い。このような単なる汗かきを超えた状態は「多汗症」という病気である。
精神性発汗と同じように手のひら、足の裏、脇の下、額などに汗をかくものの、精神的要因は2次的で、多汗症の人は汗を出す体の仕組みに異常が起きている。自律神経の中の交感神経の反応が強く過敏であることはわかっているが、なぜそうなるのかはわかっていない。遺伝的要因もあると考えられており、不明な点の多いのが現状である。
その多汗症の治療には「薬物療法」「制汗剤」「イオントフォレーシス」「胸腔鏡下交感神経切除術」「交感神経ブロック」がある。治療を希望する患者の10%は胸腔鏡下交感神経切除術に、90%は手術以外の方法となる。
やはり、まずは薬物療法となる。神経遮断薬、自律神経調整薬、抗不安薬が使われる。神経遮断薬には交感神経の伝達経路を遮断して汗を止める働きが、自律神経調整薬には優位になっている交感神経を抑える働きがある。抗不安薬は不安が強いケースに用いられる。
この3種類の薬を患者の訴えを聞きながら上手に組み合わせて医師が処方すると、最も重症の「手のひらに汗の水滴ができ、汗が滴り落ちる状態」(グレード3)でも手術を必要としなくなることが多い。
制汗剤を用いての治療ではアルミニウム配合の外用薬を使う。手のひらや足の裏に塗って眠り、起床時に洗い落とすと汗腺にアルミが詰まって発汗をしばらく抑えてくれる。
イオントフォレーシスはドライオニックという機器を使う治療。水道水を入れた容器に手のひらを浸し、そこに微弱電流を流すと、イオンが汗腺に入って発汗を抑える。80%の人に効果があるが、やめると2~4週間でもとの状態に戻ってしまう。今は、ドライオニックの家庭用も販売されているので、それがあると週に数回の通院が不要になる。
いろいろ手をつくしたが無駄だったときには胸腔鏡下交感神経切除術がある。脇の下に4ミリ程度の孔をあけて胸腔鏡を挿入し、第2、第3肋骨が脊椎から出ていく部分で交感神経を切断する。
効果はすぐに出て、一生汗に悩まされないものの、副作用として「代償性発汗」がある。体のほかの部分から、その分の汗が出る。そのため、ファーストチョイスは片方の交感神経の切断。その後、様子を見て、次の対応を考えるのである。これにより悩みの80~90%は消え、QOL(生活の質)も下がることはないといわれる。
このほか、交感神経に鍼を刺し、アルコールを注入して神経をブロックする交感神経ブロックがある。成功率は60%程度といわれている。
どの治療で対応するかは、専門医と納得いくまで話し合って決めるべきである。
食生活のワンポイント
食事療法としてはストレスに強くなる食生活が多少は手助けになる。
(1)ビタミンB1を摂ろう!
抗ストレス作用のあるのがビタミンB1。玄米、納豆、豚肉、牛レバー、ゴマ、そば、焼きのり、ほうれんそうなどを積極的に摂るようにしよう。
(2)ビタミンCを摂ろう!
ストレス過多になるとビタミンCが大量に消費される。ビタミンCを多く含むのは果物類、トマト、ジャガイモ、ブロッコリーなどの野菜類。
(3)カルシウムを摂ろう!
神経のイライラを鎮める働きがカルシウムにある。多く含むのは煮干し、ひじき、ゴマ、牛乳、チーズなど。