「暇になると従業員をクビにする」の真意

また業界格差という点では、私が日本で開拓したコンサルティングファームや最近では投資銀行のトレーダーなどは、世界標準の給与体系がとられているので、40歳を待たずに1億円プレーヤーになることもできる。年収300万円と3億円、400万円と4億円という、100倍もの年収格差が日本でも現実に出てきているのだ。ただし、その仕事ぶりは半まで働くのは当たり前の世界なのである。

私がマッキンゼーの支社長時代、日本で最優秀の頭脳集団をつくろうと思い、540人ほどリクルーティングをした。当時、入社してくる全員に前もって言ったのは、「ウチの会社は毎年20%ずつ退社してもらうから、1年後にあなたが残っている確率は80%。5年後に残っている確率は33%」ということだった。

生存率33%を生き抜けば、6年目から「パートナー」と呼ばれる立場になる。さらに6年後、すなわち12年後には「ディレクター」になることもできるが、その確率はさらに5分の1。つまり入社しても、5~6%の確率でしかディレクターにはなれない。ただし、年収は1億円以上!である。

雇用保証は一切なし。成果が評価のすべて。日本の学卒対象者の雇用制度としては、過去に例を見ないシステムだったが、誰一人不満を言わずに辞めていった。

なぜか? 彼らはどこの世界にいっても通用する「問題解決能力」を徹底的なトレーニングによって身につけたからだ。結果、元マッキンゼーの人材は、さまざまな分野で活躍している。雇用保証はしないが、路頭に迷わないようにするのが私の務めだと思っていたから、とにかく厳しく仕込んだ。当時はよく「大前は鬼だ、悪魔だ」と言われたものだが、今となっては皆から「あのときのおかげで今、飯が食えています」と言ってくれる。

また、こんな話もある。友人のジャック・ウェルチ氏(元GEのCEO)は、「暇になると自分は従業員をクビにする」と言う。実際、GEは毎年15%ずつクビにしていた。その理由を聞くと「緊張するから」と言う。誰をクビにするか、そんな嫌なことを考えると自分も緊張するし、クビにならないように社員も緊張する。生き残った社員はありがたみを感じて一生懸命仕事をする、というのだ。