世界はヨタヨタ歩きでユートピアへと向かうのか?
産業革命以来の地球は、すさまじい変化をとげた。ほとんどの人が餓死寸前だった世界が急発展を遂げ、物質的にも、人権や政治体制、平等性などの面でも大躍進。昔の人が見ればまさにユートピアだ。その道筋とは? 本書は、経済の視点からそれを描こうとした、カリフォルニア大学経済学教授のブラッドフォード・デロングによる大作だ。
原題を直訳すれば「ユートピアへヨタヨタと向かう」。本書の大きな主張は、進歩が単線的ではなかったということだ。戦争や大恐慌が起き、ファシズムや共産主義の惨事があり、何度もその歩みはふらついた。だが、止まることはなかった。
それを支えたのは、イノベーション、アメリカの台頭、市場の拡大とその統制(の失敗)だという。特におもしろいのは、20世紀の成功が「発明の発明」による、という主張だ。それ以前の発明は、たまに偶然起こるものだった。20世紀はそれを意図的に起こそうとした。研究、開発、人材育成と集中、資金調達システム――それが特許や企業という形で制度化される。
だが、その成果やそれが生み出す格差が不安定をもたらし、それが社会と政治も変える。そのたびに、ユートピアへの歩みはふらつく。そのたびに、ケインズをはじめ様々な人々が新しい政治経済の仕組みを構築してきた――いままでは。だが、これからは?
最後で本書は俄然悲観的になる。長い20世紀の歩みは2010年には終わった、これまでの発展を支えてきた要素はすべて消えた。技術革新は衰えアメリカ主導もおしまい。進歩は二度と復活しない、その証拠にトランプが大統領に選ばれてしまった……。
え? いやいや待て待て。確かにトランプの政策は変なものも多かった。が、この世の終わりでもなかった。それ以前にトランプ現象は、その支持層の不満や懸念を黙殺してきた体制エリートの大衆蔑視の結果だ。まずそれを改めよう。どの時代もこの程度の悪い要素はあったけれど、なんとか克服してきたというのが本書のメッセージでは?
こう書いているときにトランプ暗殺未遂が起き、バイデン候補の首がろくな説明もなしにすげかえられた。本書的には今年の米大統領選で、進歩停止のダメ押しが来かねないが……。
評者は、そんなに捨てたものではないと思う。技術進歩はAIや宇宙開発を見ても続いているし、政治制度も進歩する。アメリカには頑張ってほしいが、それ以上に、アメリカ主導でなくても進歩が続く仕組みをここ数十年みんな模索しているのでは? 著者の主張とは逆に、本書からもっと明るい道を見出すこともできるはずなのだ。みなさんも夏休みにこの大著から、ご自身なりの未来への道を読み取ってほしい。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。
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