東大前は文士との遭遇率が高い街
NHK朝の連続テレビ小説「ブラッサム」。第5週(10月26日~)。いよいよ珠(石橋静河)は木村保(金子大地)と東京生活を始めることに。
さて、そんな東京生活の名所のひとつとなるのが本田(川島潤哉)が店主を務める書店「ぶくぶく堂」。そこで、芥川龍之介をモデルにした作家・秋山格之介(高良健吾)やトルストイの『イワンの馬鹿』を翻訳したという、翻訳家・小山牛丸(イッセー尾形)などに遭遇する(史実で最初に翻訳したのは内田魯庵である)。
そんな有名人との遭遇率の高い書店。今でこそ激減してしまったが21世紀初頭まで本郷の東大前は多数の古書店も軒を連ねる一大書店街であった。となれば、千代が多くの文人と遭遇していてもおかしくはない。
実際、芥川の「その頃の赤門生活」によれば東大正門前にあった郁文堂書店に出入りしていたことが記してあるので遭遇していてもおかしくはない(『芥川竜之介全集』第10巻角川書店、1968年)。この郁文堂は長らく東大正門前で営業していたが、2025年に本郷三丁目に移転した。
日給80銭、即日採用の「女優募集」に飛びついた
さて、ドラマの東京生活はやたらと居心地がいい。下宿先の三好辰五郎(赤堀雅秋)とマキ(中村優子)の父娘は何かと世話を焼いてくれ、食事まで出してくれる。
……これは朝ドラの優しさである。大正時代の下宿屋が、店子にそこまで親切にしてくれるわけがない。世の中は世知辛い。だから千代は、事務員に、モデルにと、必死に働いている。
しかも、地道に稼ぐだけで満足する千代ではない。華やかな舞台への憧れが、どうにも止まらないのが千代の性分だ。回想によれば、ある日、千代は新聞でこんな広告を見つけた。
「女優募集。新時代の芸術家たらんとする若き人は来れ。日給80銭支給、すぐその日から採用す。面会は西巣鴨一丁目、吉村写真館」
見つけるやいなや、すぐに家を飛び出している。本人がそう書いているのだから間違いない。
女優さんになれて、その上にその日からすぐ日給を80銭もくれるといふのはほんたうでせうか。80銭といふお金は、いまで言ふと80円か、もっと上かも知れません。ああ、こんな有難い仕事がまたと他にあるでせうか。私は大急ぎで支度をして出かけました。
(中略)
「女優志願ですね、この次の日曜から仕事にかかります。朝、10時に、きっかり10時ですよ。お昼の弁当を持って、ここまで来て下さい。衣装はこちらで支給します。」とその男の人が言ふのです。私はもうぼうつとして了ひました。もうこれで、たつたこれだけのことで、私はもう女優さんになって了つたんでせうか。こんなにあつといふ間に、採用されて了つたんでせうか(『私のお化粧人生史』中央公論社、1955年)。

