息子がいい相手を選ぶために、親がどうすればいいかについては、わが家の場合、非常に若くして知り合い、結婚したので、私や妻が大きな影響力を及ぼしたとは言い難い。息子も義理の娘も、お互いに出会えてラッキーだったと思う。

マッチング理論を日常生活に応用する際、最も大切なのは、協力関係や長続きする関係を築くことである。長期的関係を犠牲にして目先の利益を得ても、その場限りで関係は途絶え、幸せは逃げていくだろう。

結婚では、長期的関係をはぐくむことが重要である。庭師が植木を手入れするかのごとく、2人の関係が、いつまでも健全で長持ちするように気を配ることが肝心だ。長期的関係が大切なのは、結婚に限ったことではない。友情も同じである。重要な関係をいくつかに絞って、十分な注意を注ぎ、関係をはぐくむ。

さまざまなエコノミストが幸福に関する研究をあまた手掛けているが、幸せの多くは、社会生活の健全さにかかわっている。信頼できる良き妻や友人、知り合いがいるかどうか、だ。

私が日ごろ努めているのは、周りの人たちが幸せにやっているかどうか、気を配ること。人間関係が順風満帆に運ぶよう気遣い、みんなが幸せで、うまくやれるよう心掛けることである。

だから、教え子との関係にも、ふんだんに時間を割く。現在、博士課程の学生たちが労働市場に参入する時期だが、彼らの就職先をリサーチし、労働市場へとナビゲートするのも、担当教授としての仕事である。マーケットデザイン(マッチング理論の応用による市場設計)の授業に合わせ、「マーケットデザイン」というブログを立ち上げたが、その中では教え子の就職活動に関する投稿も行っている。

結婚相手、就職先、職場の人間関係……長期的関係構築の大切さは、多くの事柄に当てはまる。今日一日のことだけではなく、長年にわたって関係をつくり上げるために、自分の望むことと相手の望むことをすり合わせていく。それが幸せな人生を送るカギなのだ。

経済学者 アルビン・ロス
1951年生まれ。スタンフォード大学教授。74年、スタンフォード大学よりオペレーションズ・リサーチのPh.Dを得る。2012年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉教授のロイド・シャープレー氏とともにマッチング理論を応用した「安定配分理論と市場設計の実践」の功績からノーベル経済学賞を受賞。
(肥田美佐子=構成 Linda A. Cicero/Stanford、飯田安国=撮影)
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