ワクチンは自然免疫の代わりにはならない
「免疫力を高める」という言葉は広く使われていますが、その中身が具体的に語られることはあまり多くありません。その結果、免疫に関してしばしば異なる仕組みが一緒くたに語られ、誤解が生じてきました。とくに混同されやすいのが、「自然免疫」と「獲得免疫」です。
このふたつは、どちらも私たちの体を守る重要な仕組みですが、役割も性質も、働き方もまったく異なります。
では、自然免疫とは一体何なのでしょうか。
自然免疫は、私たちが生まれながらに持っている防御の第一線です。体内に異物が入ってくると、その正体が何であれ、「自分ではないもの」として素早く認識し、即座に反応します。反応の速さが最大の特徴で、数分から数時間以内に働き始めます。
自然免疫の目的は、異物を素早く処理し、大事に至らせないこと。ですから、実は炎症や発熱も、自然免疫が異物を排除するための正当な反応なのです。つまり、自然免疫は、あくまでその場をすぐに片づける役割を担っています。
一方、獲得免疫はまったく性質が異なります。
獲得免疫は、自然免疫が対応しきれなかった場合や、繰り返し侵入してくる異物に対して働く、後方支援型の免疫です。反応が始まるまでに7~15日の時間がかかりますが、その代わり、特定の異物を正確に識別し、「抗体」をつくり、「記憶」するという特徴を持っています。
「免疫力=抗体の量」は大間違い
獲得免疫の強みは、過去と同じ異物が再び入ってきたときに、より効率よく対応できること。その反面、即応性に乏しく、体のエネルギー消費も大きいという側面もあるのです。
ところが一般には、「免疫=抗体」「免疫力=抗体の量」というイメージが強いのではないでしょうか。その結果、獲得免疫ばかりが注目され、自然免疫の重要性がないがしろにされがちなのです。
とりわけワクチンの話題になると、この傾向が顕著になります。
ワクチンは、獲得免疫を人工的に刺激し、抗体をつくらせるという仕組みです。
これは感染症対策として有効な側面を持ちますが、自然免疫の代わりになるわけではありません。自然免疫がうまく機能していない状態で、獲得免疫だけを強く刺激すると、免疫全体のバランスが崩れやすくなってしまうのです。
「免疫力を高める」というのは、獲得免疫をやみくもに刺激することではありません。まず整えるべきは、自然免疫が正しく働ける環境なのです。自然免疫が安定していれば、獲得免疫は必要な範囲で静かに働きます。
自然免疫と獲得免疫をごちゃ混ぜで考えてしまうと、「抗体が多い=健康」「免疫が強い=安全」という単純な発想に陥りがちです。しかし、免疫の本質は量ではなく、役割分担と切り替えの巧みさにあるのです。

