法医学者の数は全国で150人ほど

高齢者だからといって深く考えず「老衰」と判断してしまうことによる弊害・不利益がいかに大きいか、イメージしていただけたのではないでしょうか。

高木徹也『私たちはなぜ死ぬのか 法医学者が語る「永く、よく生きるための技術」』(CEメディアハウス)
高木徹也『私たちはなぜ死ぬのか 法医学者が語る「永く、よく生きるための技術」』(CEメディアハウス)

それでも解剖数が増えず死因究明が進まない理由の一つには、法医学者の数が全国でも150人ほどと少ないことが挙げられます。1947年(昭和22年)の連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示によって全国7都市に設置された監察医務院も、現在機能しているのは東京都23区、大阪市、神戸市の3都市だけ。それ以外は、地域の大学の法医学教室に法医学者が1人だけ、あるいは1人もいないという地域もあります。

日本で解剖数が増えない理由はいろいろが考えられますが、最大の理由は予算不足でしょう。法医学はその成果を評価しにくく、収益性が乏しいため、予算の割り当てが少ないのです。言い方は悪いですが、死体にはなるべくお金をかけたくない、死体はお金にならない、ということなのだと思います。「亡くなった人にメスを入れるのはかわいそう」「亡くなったら、そっとしておいてあげたい」といった日本人の死生観、また「人は本来善人である」といった性善説も関係しているかもしれません。

ちなみに、フィンランドでは異状死体は解剖することが法律で義務づけられており、その解剖率は99%です。以前、東京の居酒屋で偶然隣り合わせたフィンランド人と飲んだことがあります。その人は法医学者でも警察官でもありませんでしたが、フィンランドの解剖事情を聞いたところ、「人が亡くなったら死因を知るために解剖するのは当たり前だよ」と言われたので驚きました。また、人は利己的で悪いことをするという性悪説が根底にあり、家族が亡くなったらその死因を知ることは遺族の当然の権利だと主張していました。

このようにお国柄による考え方の違いもあるかもしれませんが、死者数が増加傾向にあるいまだからこそ、解剖数を増やして高齢者にも正確な死因をつけることが重要だと私は考えています。みなさんはどう思われるでしょうか。

老人男性
写真=iStock.com/Alex Liew
※写真はイメージです
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