大企業のエリート社員が引き起こす暴力犯罪や性犯罪が後を絶たない。その背景にあるスーパーエリートの心象風景を探った。
ヒマな高齢者が凶悪化する理由
普通の人が犯罪を犯すまでには、必ず引き金となるものが存在している。法政大学文学部教授で犯罪心理学が専門の越智啓太教授は、「人はなぜ犯罪を起こさないか」を考えることによって、逆に、犯罪の引き金を明確化できるという。
「高学歴の人や社会的な地位が高い人はあまり犯罪を起こしませんが、それは、犯罪を犯すことで失うものが大きいからです。これを逆に考えれば、失うものが少ない人ほど犯罪を犯しやすいということになります」
越智教授の研究によれば、「犯罪を引き留める要因」は以下の4つに集約される。
(1)家族や所属する組織に愛着がある
(2)社会的地位など失うものが大きい
(3)仕事が忙しくて暇がない
(4)規範意識が高い
つまり、犯罪の引き金になるのは、この(1)~(4)のすべて、あるいはいくつかが失われた状態ということになる。
「最近、日本の犯罪の世界では高齢者の凶悪化が大問題になっています。特に、会社を退職した直後の人は危険です。突然、人間的なつながりを喪失し、暇な時間がいきなりできるので、引き留める要因が急に少なくなってしまうのです」
これは、日本IBMの最高顧問だった大歳卓麻氏が、会長を辞めて最高顧問に退いた後に事件を起こしていることとも符合する。会社との絆が細くなり、失うものが相対的に小さくなった結果、潜在的な欲望に勝てなくなってしまったのだろうか。
また、先の4項目に加えて、ばれるリスクを低く見積もる人ほど犯罪を犯しやすいと越智教授は指摘する。
「企業犯罪の大半は、自分の職場で自分の仕事の延長で行われますが、それは慣れた場所で慣れたことをやるのだから絶対にばれないだろうと考えるからです。特に、お飾りの上司が1、2年でかわっていくような職場は犯罪が起こりやすい。腰掛けの上司は仕事のチェックが甘いので不正や横領が露見しにくく、ばれる可能性が低くなりがちなのです」