収益の8倍以上、440億ドルで買収した狙い
そして今度は、また奇妙なタイミングでプラットフォームの買収を決断した。2022年1月にTwitterの株を買い始めると、4月に同社の非公開化を提案※5。だがテック不況により買収は厄介なものとなる。買収資金を借り入れる担保にテスラ株を用いたが、テスラ株の価値が2022年内に66パーセント近く下落したため、資金の調達には困難が伴った。けれども最終的に売却は成立した。
※5:Conger and Mac, Character limit: How Elon Musk destroyed Twitter, 102.
純粋に財務的な観点から見れば、この買収はほとんど理にかなっていなかった。2022年10月にマスクが支払った440億ドルという金額は、Twitter社の2021年の収益の8倍以上※6。テック不況がTwitterを直撃していたことを考えると、マスクは苦境にあるプラットフォームに対して極めて高い金額を上乗せしていたことになる。しかし短期的な収益性など問題ではなかった。
※6:Giles Turner and Maxwell Adler, “Elon Musk Makes $43 Billion Unsolicited Bid to Take Twitter Private”, Bloomberg (April 14, 2022).
マスクにとって、Twitterはビジネスをはるかに超えるものだったからだ。Twitterは、サイバネティック・コレクティブにおける中心的な結節点であり――そのうえウォーク・マインド・ウイルスにすっかり感染している場所だったからである。このウイルスがもたらす危険に対して取りうる策のひとつは、接続を断つことだろう。
マスクが恐れたのは「覚醒思想ウイルス」
サイバーセキュリティの専門家は、ネットワーク接続をすべて物理的に切り離すことでコンピュータを「エアギャップ」状態にすることがある。
これにより、攻撃者がシステムに遠隔からアクセスできないようにするのだ。
だが、マスクが選んだのは正反対の道だった。ネットワークから離脱するのではなく、ネットワークそのものを支配することにしたのだ。2022年12月、彼はリチャード・ドーキンスに向けて、こうツイートした。
「ウォーク・マインド・ウイルスは、世界で最も賢い肉のコンピュータのファイアウォールを驚異的なスピードで突破している!」※7。彼のTwitter買収は予防策だった。マスクによれば、オンラインで過ごす時間の長さゆえに、ウイルスの感染を早期に検知できたのだという。
※7:https://x.com/elonmusk/status/1608919969953349634, December 30, 2022.
自分よりもフォロワーの多いアカウントは他にもあったが、彼には「最も多くのインタラクション」があったとタッカー・カールソンに語っている。そして、そのインタラクションを通じて、何かがおかしいと感じるようになった。「このデンマーク国では何かが腐っている(シェイクスピア『ハムレット』の有名なセリフ)。このプラットフォームでは何かがおかしい」と振り返っている※8。
※8:“FULL Elon Musk Interview with Tucker Carlson FOX News April 2023 (Unedited)” (April 2023).

