反抗期の子どもの心を開く「聴き方」

――「家に帰らないとダメじゃないか」といった指導はしないのですね。

そうした言葉を先に伝えることはしないように心がけています。まずは、その子が今どんな状態にあるのか、ありのままに聞いていくことを大切にしています。

「いい友達がいるんだね」「寒いから、体だけは大事にしてね」といったやりとりを重ねていくことで、少しずつ関係が続いていくようになります。

そうやって話を聞いていく中で、「両親との関係がしんどい」「(できのいい)兄ちゃんと比べられるのがつらい」「勉強は苦手だし、学校に居場所がない」といった本音を、少しずつ話してくれるようになります。ネットで知り合ったつながりが自分の居場所になっていることなど、大人が知らない現実も見えてきます。

そうした話を否定せずに受け止めながら、「これから先、どうしていきたいと思ってる?」と、「少し先のことを一緒に考える問い」を徐々に投げかけていきます。

『3万人の親子に寄り添ってきたスクールカウンセラーが伝えたい 10代の子どもの心の守りかた』(実務教育出版)著者の普川くみ子さん
3万人の親子に寄り添ってきたスクールカウンセラーが伝えたい 10代の子どもの心の守りかた』(実務教育出版)著者の普川くみ子さん(提供=実務教育出版)

「君、今中2じゃん。中3になって1年経ったら中学校を卒業しちゃうけど、その後どうしたいと思っている?」と聞くと、最初は「1年後も、いまと同じ感じじゃないかな」といった、目の前の現実の延長線上で答えることが多いのですが、「3年先はどうだろう?」「その先はどんなふうになっていそうかな?」と少しずつ時間の幅を広げていくことで、子ども自身の言葉が変わっていきます。

「いや、さすがにずっとこのままってわけじゃないと思う」「どこかで変えないといけない気はする」

そんなふうに、自分の中で少しずつ現状の違和感や、将来への見通しが言葉になっていくのです。そこで「もし変えるとしたら、どのあたりからになりそうかな?」と問いかけると、「中学校を卒業する頃には、何とかしたいかも」などと、自分なりの区切りを考え始めます。

こうしたやりとりの中で、社会の仕組みや選択肢についても少しずつ共有していくことで、「高校に行くことも一つの選択肢なのかもしれない」と彼自身が考え始めました。

大人が答えを示すのではなく、子どもが自ら、自分の言葉で未来を描き始める。このプロセスがとても大切だと感じています。

「俺、児相へ行くよ」

――未来について考え始めたとき、ご本人の意識はどのように変わっていったのでしょうか。

対話を重ねていく中で、彼は「もう、あの人たち(ネットでつながった人たち)との関係から抜け出せない気がする」「家に戻っても、また同じことを繰り返してしまいそう」と、自分の状況を少しずつ言葉にするようになりました。

「変わりたい気持ちはある。でも、難しい」そうした心の揺れも、率直に話してくれました。その上で、いまの状況から少し距離を取る方法として、いくつかの選択肢を一緒に考えました。

「家に戻って、自分で一切そういう人たちと連絡を断ち、学校に来なくてもいいから普通の生活をしていくことが一つ。もう一つは、嫌かもしれないけど、一度、児童相談所などの公的な施設に入って、物理的に関係を断って生活リズムを立て直すこと。ただ児相にはずっといられるわけではなく、数カ月で家に戻るのか、さらに他の施設に移るのかを考えなくてはいけない。その間に自分の中でどうやってやり直すかを考えること。今私が提案できるのはそれくらいだけど、どっち選ぶ?」と尋ねました。

どちらが正しいということではなく、「自分にとって、現実的に選べそうなのはどちらか」を考えてもらいました。

しばらく考えたあと、彼は、「……俺、児相に行くよ」と、自分自身で選択したのです。大人に決められたのではなく、自分自身でいまの環境から離れ、やり直すことを選んだ瞬間でした。