数人を経由すれば誰とでも知り合える

さて、ここで2つの経営理論を紹介させてください。

まず、「偉くなる人の人脈のつくり方」(http://president.jp/articles/-/10645)でもお話しした「弱い結びつきの強さ」です。これは、いつも顔を合わせている「強い結びつき」の親友よりも、たまにしか会わない「弱い結びつき」の知り合いのほうが、幅広く速報性の高い情報をもたらしてくれるという理論でした。弱い結びつきのほうがつながりに重複が生じないため、ネットワーク全体で効率的に情報が「飛ぶ」からです。初めてこの理論を提唱したスタンフォード大学のマーク・グラノベッター教授の論文では、ボストンで就職活動に成功した若者の多くが、親友や家族ではなく、「ちょっとした知り合い」から得た情報を活用していたことが示されています。すなわち情報を幅広くすばやく集めるには、「弱い結びつき」のほうが向いているのです。

2つ目は「スモールワールド」と呼ばれる考えです。発祥は1967年にスタンレー・ミルグラムという心理学者が行った実験に由来します。彼は米中西部のカンザス・ネブラスカ州に住む人たちに、彼らが面識のない東海岸のボストンに住む特定の受取人向けにチェーン・メールを出すよう依頼しました。チェーン・メールとは昔流行った「不幸の手紙」のように、受け取った手紙を次から次へと転送するように促す内容の手紙です。ミルグラムは、カンザス・ネブラスカの人たちが手紙を出す際に、彼らの知人の中で「そのボストンの最終受取人に近そうな人」を選んで手紙を送るよう頼みました。そしてその手紙を受け取った人がさらに自分の知人の中でこのボストンの最終受取人に近そうな人に手紙を転送していく、という仕組みです。そして最終的にボストンの受取人まで何人を経由して手紙がたどり着くかを検証したところ、なんと平均でたった6人を仲介するだけで手紙は届いたのです。

よく「世間は狭い」と言いますが、本当に世界は狭いのです。おそらく日本でも、ほとんどの方は数人の知り合いを経由すれば、日本中のどんな人にでもたどり着けます。スモールワールドは以前から学術的な研究が進んでいましたが、これを私たちの実感として顕在化させたのがSNS、なかでもフェイスブックの登場ではなかったか、と私は考えています。みなさんの中にも「フェイスブックをやっていたら、意外な人が自分の『友達の友達』だった」という経験をされた方は多いのではないでしょうか。フェイスブックは友達紹介機能が優れていますし、また今つながっている友達がどのような人に「いいね!」ボタンを押したかもわかるので、そこからスモールワールドが広がっていくのです。

これらの考えに基づけば、みなさんのキャリアのために効果的なSNSの使い方が見えてくるのではないでしょうか。それは、みなさんのSNSを使う「目的」に大きく依存しているのです。

例えば、もしみなさんが中長期的に転職を考えていて、でもまだどの業界に移るかを絞りきれていないのなら、各業界の現状・就職情報を幅広く集めるために「弱い結びつき」のフェイスブックを活用するのが効果的でしょう。さらに、フェイスブックを使って多様なつながり(=人脈)を広げていけば、「スモールワールド」の効果で、普段は決して知り合えないような業界のキーパーソンや、転職したい業界の経営者、人事担当者とつながれるかもしれません。

他方で、もしみなさんがすでに転職したい業界を絞りこんでおり、人脈を築くつもりはないけれど、業界の深いインフォーマルな情報を得たいのなら、「強い結びつき」のミクシィを活用することも効果的でしょう。