新鮮で価値ある情報はどこに隠れているか
相手から話を引き出すときに大切にしていることについて、こんなお話をされていた。
「相手は生もので動いているのに、固定された情報にしばられると、せっかくのいいお話を聞き逃してしまうことがあるんです。だから、持っている情報に縛られずに生の話を聞いて、きっかけとなる言葉を見つけることが大切」
目標にした内容しか耳に入らなければ、せっかくその場で生まれた新鮮で価値のある情報を自ら捨ててしまうことになる。だから、持っている情報やあらかじめ聞こうとしていた内容はいったん脇において、今流れている話の中で「それはどういうこと?」とキーワードのしっぽを捕まえては引きずりだすことで、細部を突きつめていく。
阿川さんは特有のおしゃべり風伝達術でこんなピソードを話されていた。
「児童文学者の松岡京子さんにお会いして最近の子供の読書について聞いてみると、読書量が減っていることが問題ではなく、忙しすぎて本を読んだ後に考える時間がないことが問題だとおっしゃっていました。昔の子供はすることがないから、絵本を読んだ後にその本について『ああでもない、こうでもない』と頭の中でグジュグジュと反芻する。そのうちに物語と別の引き出しが頭の中にできて、それが感性の宝になっていくんですね。でも今は、本を読んだら次は塾、という風に時間がない。それが問題だと」
たとえば“読書量が減っている”ことが今回のヒアリングの目的だったとしても、それ以上に価値のある話を相手がポロッとこぼすかもしれない。一番の要となる“読書後の時間の大切さ”という情報の価値に気づき、「それはなぜか?」と“素朴な質問”をぶつけてみる。これで、「読書量よりも読書後に内容を味わい考える時間の不足の懸念」という作家さんが一番伝えたかったことが引き出せるだろう。
ポイントは先入観にとらわれすぎず、ぜひともつかんでおきたい情報の糸口を見逃さずに、そこからズルズルと情報を引きずり出すこと。すると、思いがけない情報の宝を掘り当てられるというわけだ。
さて、阿川さんはこうして経験の中から話をしたところで、相手の力を自分の話の中でテコのように利用する術を登場させた。