こころのホットラインに助けを求めた
ある夜、リッチの精神状態が極めて悪化したため、ジュリーは彼を病院に連れていった。支援を求めてジュリーは「こころのホットライン」にも電話をかけた。予想外にも、相談員はジュリー自身の状態について確認した。
「あなた自身はどうしているの? 大変でつらい時期だけど、自分の心をいたわるために何かできている?」
答えられるようなことは何もしていない、とジュリーは気づいた。自分のメンタルを気にする余裕など皆無だった。
「それでやっと、こんなの無理って気づいたの。2人ともフルタイムで働きながら、私一人で娘と夫と会社とスタッフ全員のケアもやるなんて。ストレスだらけで、続けられるわけがない」
夫婦で優先順位を考え直さなきゃいけない、とジュリーは気づいた。仕事や娘の世話、2人の関係、心の病など、多忙な上にストレスも多く、無理がたまっていた。そこでジュリーは計画を立てた。リッチの仕事はシカゴでなくても中西部にいればできるから、生活コストの安いところへ引っ越せばいい。家賃や物価が高くないところに住めば、ジュリーは家で娘とリッチのために時間を使えるし、リッチも休んで治療と向き合えるはずだ。都会の喧騒を離れて郊外に住めば、ジュリー自身にも自分をいたわる余裕ができるはずだ、と。
やってみよう、とリッチも同意した。ジュリーはNPOの代表を離職し、持ち家を売って引っ越しの資金にあて、ウィスコンシン州に居心地のよい値ごろな家を見つけて転居した。
他の人を思いやる心の余裕ができた
「私たちは恵まれていたから、かなり鼻につく話だよね」とジュリーは言う。「持ち家を売ればかなりの金額になるとわかっていたから踏み切れたの。すごくラッキーだった」
現在のジュリーは「専業ママ」を自称しつつ、自宅で複数のビジネスを立ち上げている。ウィスコンシンに移住して4年で、小規模ながら3社を起業した。相変わらず猛烈に働く癖は抜けていないようだが、それでも、以前と違って息をつく余裕ができたとジュリーは言う。
「今は自分のことや他の人を思いやる心の余裕ができた。だから前よりはずっと優しく寛容になれたと思う。シカゴにいた頃は、さあ出勤だ、お迎えだ、ひどい渋滞だけど娘をどこで降ろそう、どこに車を停めよう、って考えてばかりで周りが見えてなかった」
今では、ジュリーは自分の仕事量にリミットを設定し、家族にストレスがたまらないよう気をつけている。そこを間違うと取り返しがつかないと知っているからだ。ダンススタジオでパートタイム講師の仕事を始めたジュリーだが、講師間で人間関係の争いがあり、それが自分のストレスになっていると気づいた。ダンス業界は性差別や体型差別が根強く残っており、そのような環境に娘や自分を置きたくなかったこともあって、彼女はすぐに仕事を辞めた。数年前のジュリーだったら、仕事を始めてすぐにノーの意思表示をするのは困難だったろう。

