引当金を計上できる4つの条件

とはいえ、会社が「なんとなく心配だから」といって、自由に引当金を作れるわけではありません。会計には、次の4つのチェックポイントをすべてクリアした場合にのみ、引当金を計上しなければならないという厳格なルールがあります。

1.将来の特定の費用または損失であること

「将来の何に対する費用や損失なのか」がハッキリしている必要があります。「なんとなく将来が不安」ではダメで、「製品の修理費用」「従業員の退職金」「来年のボーナス(賞与)」「売掛金が回収できない」など、具体的でなければなりません。

2.その発生が当期以前の事象に起因すること

「原因のタネ」はもうまかれている状態です。例えば、「今年販売した製品に欠陥がある」「今年まで働いた分の退職金」「今年働いた成果が来年のボーナスに反映される」「今年販売した商品に係る売掛金」といったケースがこれにあたります。

3.発生の可能性が高いこと

「もしかしたら」というレベルでは計上できません。過去のデータや契約内容から、発生可能性が高いと客観的に判断できる必要があります。

4.その金額を合理的に見積ることができること

金額がピッタリでなくても、根拠のある計算ができることが求められます。「えいや!」という勘や希望的観測で決めるのはNGです。

確定した未来の赤字を無視していた

ニデックの事案では、上の4条件を満たしているにもかかわらず、「損失を計上するタイミング」を意図的に先延ばしにしていた疑いが持たれています。

ニデックのケースで問題となったのは、前述したテレビの修理のような「製品保証」だけではありません。「このまま契約通りに作り続けると、将来これだけの赤字が出る」ことがわかっているにもかかわらず、その確定した未来の赤字を無視していた点にあります。これこそが、今回計上された「契約損失引当金」の正体です。

白井敬祐、三ツ矢彰『会計が面白いほどわかるミステリ』(KADOKAWA)
白井敬祐、三ツ矢彰『会計が面白いほどわかるミステリ』(KADOKAWA)

今回発表された364億円の「契約損失引当金」は、将来の赤字が見込まれた時点で計上すべき「未来のコストという影」でした。しかし同社は、本来なら過去に記録すべきこの影をクローゼットに隠し続け、見かけ上の利益を膨らませていたのです。

2025年11月、ついに隠しきれなくなった「負の遺産」が噴出しました。その額は、先述した引当金の364億円にとどまらず、その他の損失も一気に表面化し、合計約877億円という衝撃的な数字となって現れたのです。監査人が「意見不表明」という異例の判断を下したのも、この数字の操作という闇があまりに深く、決算書の信頼性が失われたからにほかなりません。

引当金を悪用し、現在の数字を美しく見せる。それは投資家を欺く、決算書における「最大級の罪」の1つなのです。

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