なぜ、レースセンスがずば抜けているのか

黒田の強さについて、青学大・原晋監督は「故障しない身体。両親に感謝ですよ」と話している。故障がないから練習を継続できる。だからこそ、安定感があり、右肩上がりで成長を続けているのだ。

そしてレースセンスがずば抜けている。他の選手を風よけなどとしてうまく活用しながら、省エネでレースを進行。自分のカラダを熟知しており、最後まで持つギリギリのペースで走り、最大限のパフォーマンスを発揮しているのだ。

マラソンは30kmまでテレビ中継にさほど映らなかった。向かい風を受けないように集団のなかで流れるように走っていく。その代わり、終盤の勝負どころでは攻めの走りを見せている。

箱根駅伝でいえばペース配分が絶妙だった。前々回2区の個人タイムは、横浜駅前(8.2km)をトップと25秒差の13位、権太坂(15.2km)はトップと30秒差の7位で通過。残り7.9kmで逆転して区間賞を獲得している。前回の2区も横浜駅前は12位、権太坂は6位で通過して、最終的には区間記録を上回った。

2026年大会は初めて5区に出場。「山の名探偵」を2分12秒差で追いかける展開ながら冷静だった。函嶺洞門(3.5km)の通過は早大・工藤慎作より7秒遅かったが、本格的な上りに入り、ギアを上げていく。

前年に同区間で1時間9分11秒の区間記録を樹立した先輩・若林宏樹の通過タイムと比較しても上りの強さが際立っていた。函嶺洞門は若林より2秒速いだけだったが、大平台(7.0km)で21秒、小涌園前(11.7km)で1分00秒、芦之湯(15.8km)で1分34秒。早大を大逆転すると、区間記録を1分55秒も塗り替える1時間7分16秒という異次元タイムで走破した。

腕時計なしで自分の感覚を信じて走る強み

日々のポイント練習のタイムが決まっており、コーチやマネジャーがトラックなら400mごと、ロードなら1kmごとのタイムを読み上げている。選手たちはペースを確認しながら走ることで“ペース感覚”を養っていく。

給水所で水の入ったコップを勢い良く手にするランナー
写真=iStock.com/kanzilyou
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駅伝でも各自に設定タイムが設けられることが多い。レース状況を見ながらも、設定タイムを上回れるようにペースを作っていくことになる。しかし、同じピッチで1kmを走ったとしても、追い風と向かい風ではタイムが異なる。そのため、あえて腕時計をせずに、自分の感覚を信じて走るランナーも少数派だが存在する。そのひとりが黒田だ。

タイムに固執しすぎると、設定を大きく上回ると、「オーバーペース」という判断になりがちだ。そのため“特大の快走”は生まれないが、黒田のようにタイムを気にせず、自分の“感覚”で走るランナーは周囲が驚くタイムを叩き出すことがある。

先述した通り、普段の練習はタイムやペースを意識して走っているため、感覚だけでスタートからゴールまで走る能力は“才能”の部分が大きいだろう。原監督も「ゴールから逆算して物語を作る天性のものを持っているんですよ」と評価している。