パートの社会保険加入という大転換

このような理由から、2009年刊の親本ではマイクロ法人で国民年金・国民健康保険に加入することを前提に議論した。法律上は、役員一人のマイクロ法人でも社会保険に加入する義務があるものの、この規定は有名無実になっていて、大半のマイクロ法人(と零細企業)は社会保険に加入していなかったからだ。

橘玲『新・貧乏はお金持ち』(プレジデント社)
橘玲『新・貧乏はお金持ち』(プレジデント社)

だがその後、厚生労働省が方針を大きく転換して、社会保険加入の企業規模要件(パート労働者を社会保険に加入させなければならない企業の従業員数)が501人以上から101人以上、さらに51人以上へと引き下げられ、2025年の年金制度改革で2035年までに段階的に撤廃されることになった。

また「106万円の壁」問題を受けて、これまで月収8万8000円(年収約106万円)以上としていた収入要件の撤廃も検討されている。

これによって、週20時間以上働くパート労働者は、収入や勤務先の規模にかかわらず社会保険に加入しなければならなくなる(当然、それによって保険料の分だけ手取りが減り、同時に会社の保険料負担は重くなる)。

「一石四鳥」のステルス増税

すべてのパート労働者を社会保険に加入させれば、「壁」を意識して就業調整する理由はなくなり人手不足が解消できるし、国民年金よりも受給額が増えるので、将来の低年金を避けられる。

さらに会社負担分の保険料を「没収」して年金・医療・介護保険制度の赤字を補塡できるし、個人一人ひとりから年金保険料や健康保険料を徴収するより、会社に社会保険料の計算と納付をやらせたほうがずっと効率がいい。

厚生労働省からすると「一石四鳥」なのだ。

しかし、世の中にこんなウマい話があるわけがない。大手スーパーや飲食店チェーンが社会保険料の負担増を商品やサービスに転嫁すると物価が上がるので、ツケは消費者が負担することになる。これは消費税増税と同じ効果があるが、社会保険料の引き上げは税金に比べて目立たないので「ステルス増税」に適しているのだ。