「怒りっぽい子」とそうでない子の分岐点

前頭前野の発達スピードや変化は、特に幼少期において最も活発です。この時期の子どもたちの脳は、驚くべき可塑かそ性(plasticity)を持っており、さまざまな経験を通じて神経回路を形成していきます(plasticityは、ギリシャ語の「plastikos」に由来し、成形のしやすさを示します)。

そして、この時期にしっかりと適切な刺激を与えることが、その後の人生における「感情コントロール能力」や「学習能力」に大きな影響を与えるのです。

実際、ペンシルベニア州立大学の研究では、言語能力が発達した幼児は、就学前までにフラストレーションをうまくコントロールできるようになることが明らかになっています。これは、言葉を通じて自分の感情を理解し、表現する能力が、怒りや不満といった感情を適切に処理する力を育むからです。

この種の(幼児や幼少期での)研究は非常に多いのですが、その大きな理由の一つは、就学後のみならず、思春期、成人期、さらには中高齢期における諸問題の「淵源えんげん」をたどると、結局は就学前の環境や行為に起因することが多かったからです。

ピアノや本の読み聞かせで前頭前野を鍛える

たとえば、小学校高学年での「いじめ」は小学校時代ではなく、2〜3歳頃の環境・行為(特にTV視聴)が主要因だとか、難関大学の合格率は就学前の遊びの仕方に大きく影響されるとか、あるいは、成人になってからの創造性や社会的スキル、レジリエンス(精神的回復力、忍耐力、逆境への適応力)などは、就学前に多少危険な遊びをした程度と相関するとか……。

それほどに幼少期での脳の可塑性は高く、この時期での環境・行為による可塑的変化による「結果」(可塑的に形成された脳)は人生を通じて長期的に続くんです(脳に限らず、可塑性が高いものは容易に成形できますが、そのままにしておけば成形は戻らない、といった感じですね)。そして、幼少期での可塑性が最も高いのが前頭前野であり、今述べたようなこと(いじめを含む)に深く関与します。

では、子どものうちに何をしたら、この前頭前野を鍛えられるのでしょうか。前頭前野の発達を促す効果的な方法として、ピアノの練習や絵本の読み聞かせが挙げられます。

ピアノを演奏する際には、楽譜を読み、指を動かし、リズムをとる……という複数の作業を同時にこなす必要があります。この複雑な作業が、前頭前野を刺激し、実行機能の発達を促すのです。また、本の読み聞かせは、物語を通じてさまざまな感情体験をすることができ、言葉の理解力を高め、想像力や共感性を育むことができます。

ピアノを弾く子供の手
写真=iStock.com/TUNG Chooi Yoong
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