高裁からの解散命令が近いことを見据えて
会長が「社会からの信頼回復に向けた一歩を踏み出すため」と述べている通り、辞任は「高裁での解散命令が近いことを見据えての動き」と私はみています。
現在、旧統一教会は外部の弁護士を入れた補償委員会を設置して、被害者への返金を進めています。また、12月8日現在、全国統一教会被害対策弁護団による東京地裁で行われている集団調停に対し、旧統一教会側が、被害者ら182人に対して総額約36億8000万円の解決金を支払うという調停が成立しています。
なぜ、返金をすすめているのかといえば、一つには、係争中とはいえ、東京地裁から解散命令が出たことが大きく影響していると考えています。
東京地裁の決定文のなかで、旧統一教会が「類例のない甚大な被害を生じさせた」としたうえで「今も類似の被害を生じさせるおそれがある状況が残っている」と指摘しています。それまで、「教団改革」と称して、表の顔だけを変えていれば、今後の被害の「継続性はなし」と判断されるのではないかと期待していたふしのある教団にとって、地裁の判断は大きな出来事だったはずです。
教団としては、今後、高裁の解散命令の決定がなされても、任意団体として、信者をつなぎとめて教団を維持していくためにも、「今も類似の被害を生じさせるおそれ」があるといった文言は取り除きたいのでしょう。それが、今の実質的な救済に取り組む姿勢に転換した一因になっていると考えます。
しかしながら、誰が見ても遅きに失した感は否めません。もっと早く被害者への謝罪や返金の行動をするべきで、多くの人に、付け焼刃的な状況にみられるのも仕方ないところです。
旧統一教会の宗教二世信者に取材すると…
今回の辞任は、教団のトップである韓鶴子総裁も逮捕、起訴されたことも影響しています。これまで韓総裁のもとで、教団に反対するものはすべてサタンとして、国の解散命令請求に抗い、被害は捏造・誇張されたものであるなどと主張しながら、田中会長を中心に徹底抗戦してきました。
しかし、教団内部には「もっと早く謝罪と被害者補償をするべきだった」と思う信者はいたはずで、このタイミングでの会長の辞任は、これまでの教団本部の姿勢の誤りを示すものともいえます。
会長の辞任について、旧統一教会の宗教二世だった方に取材すると「田中会長自身も、1年以上前から会長の辞任を韓総裁に打診していたようだが、待つようにとの指示を受けていたと聞いている」といいます。
会長自身も会見で「何度か会長の辞任の件は役員会のテーブルに載せましたが」と、認められてこなかった経緯を語っており、そのあたりがうかがえます。
会長を辞して、心の中には、教団としての方針転換を図りたかった思いもあったのかもしれませんが、日本は韓国をアベル(より神に近い存在)として常に許可を得たり、その指示に従わなければなりませんので、そのあたりが簡単にできない難しさもあったことが推察されます。

