「困ったときはお互い様」。片岡興一さんが代表を務めるNPO法人「市民助け合いネット」の合言葉である。
家事・外出支援や庭の手入れ、犬の散歩や幼児の預かりなど何でもいい。子供から高齢者まで、登録会員制で「助けてほしい」利用会員を、サポート会員が低謝礼で助けるという、文字通りの「助け合い」活動を使命としている。
「昔のような近所づきあいが希薄な今日、地域で支えあう新しい仕組みが必要だと思ったのが、NPO活動を始めるきっかけでした」と片岡さんはいう。
42年間、ブリヂストンの系列販売会社に勤務した。定年が間近なころ、大規模なリストラを手がけた。単に人員を削減するのではなく、機構を大幅に刷新することで目標を達成した。
「既存のものを生かして新しい仕組みをつくり出す」という企業人として培った経験がNPO活動の基盤にある。
地域活動とのかかわりは長い。30代で自治会活動に参加し、40代では自治会をサポートする有限会社を設立。さらに会社で機構改革に奔走した時期、その傍らで高齢者在宅サービスのNPO法人「流山ユー・アイネット」の設立、運営にも携わった。このNPO法人は、収入規模1億5000万円の介護サービス事業者へと成長している。
「しかし、介護保険でできるのは高齢者が求めるケアの6割程度といわれています。あとの4割は誰が担うのか。そんな思いから新たに設立したのが『市民助け合いネット』なんです」
手がほしい人と、手を貸したい人を結びつけるボランティアの仲介役。事業としては成り立ちにくい分野だが、「誰かがやらなければならないことだから」と片岡さん。「出向いた先で出会う、感謝の笑顔が励み」という。
NPO法人は、非営利の事業体だが、設立時に資本金や申請手数料、登記手数料などを必要とせず、ほとんど費用をかけずに法人格を取得できる。同NPO法人では、ほかのNPOや地域団体の運営支援や、行政の受託事業も行っている。それらの活動は定年を迎えた人の就労の場づくりにもなっている。
「会社での業務経験、特技も趣味も何でも地域のために役立ちます。活躍の場もこれからどんどん増えていく。ボランティアは定年後にという人も多いのですが、なるべく早く取り組んだほうが、後の生きがいを見出しやすい」と現役世代にエールを送る。
片岡さんが持つNPO法人の名刺は、単に所属や役職を表す現役時代の名刺とは違い、自身の生き方を表明し、表現するものとなっている。