「感動の涙」を流すのは「共感脳」が刺激されるから

私たちは、脳科学研究をしているときに偶然、被験者が泣き出す現場に遭遇したことがありました。

ここで特に驚いたのは、被験者が泣き出す前に、脳のある部位の血流が激しく増加していたこと。それがおでこのあたりにある「前頭前野の共感脳」で、この部分の血流が急に増え、その後に人は泣き始めることがわかっています。

そこで、この偶然の発見を直ちに検証する計画が立てられ、そして約1年後に確証を得ることができました。

被験者を何人も集めて「泣ける」動画を見てもらい、その間、前頭前野の血流を連続で記録したのです。すると間違いなく、涙を流す前だけ、「第三の目」の部位(共感脳)に特別に血流増加が確認されたのです。その増加量は半端ではなく、急激で驚くほど激しい増加でした。

そこで、計測に当たった私たち研究者は、これから被験者が泣き出すのを、事前に予告することができたというわけです。「これから泣くよ」と告げると、必ず、被験者は泣き出すのです。脳科学研究に携わって、これほど痛快な場面に出会ったことはありません。

「癒しの副交感神経」により昼間でも寝ている状態に

共感脳から涙を流すまでの神経回路も明らかになりました。

涙腺を直接刺激するのは、顔面神経の中を走る「副交感神経」であることが、すでに生理学ではよく知られていたのですが、ここで脳の専門家として、おやっと気づくことがあったのです。

というのは、自律神経である副交感神経は、夜寝ている間に活動が高まり、昼間起きているときには通常「交感神経」が活発に働いているはずです。

動画を見ているのは起きて活動している時間帯なので、当然、交感神経が活発に働いています。

ところが、人は泣き始めると、一時的に交感神経から「癒しの副交感神経」に切り替わってしまうのです。本来、交感神経が主に働いているべき状態であっても、副交感神経の働きが強くなることがわかっています。昼間活動している時間なのに、夜眠って体を休めているときと同じような神経回路にモードが切り替わっているのです。「泣くとすっきりする」と言われるのはこのためです。緊張が和らぎ、不安やネガティブな感情が解消されるのです。

これは通常ではあり得ない現象なのです。一体、脳内のどこで、このような切り替えが起こるのか……自律神経の上位中枢である視床下部であることが、その後の研究で判明しました。