その左側に、堤を造った時に使用したと思われる古材が、崩れたまま重なり合った状態で放置されていた。その古材の後ろは、滝から続く崖が断層の走りのようになっていて、上部の張り出した岩の下に低いテラス状の空間があるように見受けられた。薄暗いテラスの辺りは、傷ついた熊が身を隠すには絶好の場所だ。“あの古材の後ろに入っているな”と見極めをつけた父は、そっと大岩のところまで後退した。大岩の手前に立ったとき、古材の中の一本がわずかに動いたのが見えた。銃の安全装置を外した。
ウオーッと怒りの声を上げた熊が…
父が持ってきた銃は、自動五連の強力なライフル銃であった。弾丸はニッケル弾で、弾の先に銅の部分があり、獲物に命中するとその部分が炸裂して獲物の内部を大きく破壊するようにできていた。それはダムダム弾ともいう、非常に殺傷力のすぐれた種類の銃弾であった。
父は古材の後ろに目を送った。オーバーハング状に張り出した岩の下の暗がりには、うごめくものの影さえ確認できなかった。だが“あの陰に隠れているな”と見透かし、“よしっ、あの古材に一発、弾を撃ちこんでみよう”と決めた父は、肩付けしたウインチェスターの銃口を古材の一本に狙い定め、静かに引き金をしぼり上げた。
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