あえて「1歳分だけ」に限定することで
生まれる口コミ効果

旅行市場と同様、スキー場やJリーグも、動員減少やシニア化という課題を持っていた。スキー・スノーボードの人口はピーク時の1993年から半減。またJリーグについても、ファンの平均年齢は2004年から4歳以上高くなり、39歳(2013年)となっていた。

そのような厳しい状況の中で、「マジ!」シリーズが若者に広まったのはなぜか。大きな要因として挙げられるのは、対象年齢を「1歳分」に絞ったことだ。

「2つの企画で重視したのは、口コミでの拡散。そのためには、より説明しやすいコンセプトが必要と考えました。『大学生』『20歳以下』などではなく、『19歳』『20歳』と特定する。学生たちは、子供の頃から「年齢で横切りされた」人間関係の中で生きています。彼らは友達の年齢を明確に知っているので、そこで話題になることが重要です。」

実際、「雪マジ!19」は8割以上が口コミで流通した。「○歳は無料」というシンプルなコンセプトが、実は口コミを生むための最大の仕掛けだったといえる。

「たとえば35歳限定でこの企画を行なっても難しいと思うんです。社会人になれば年齢で横切りされた学生社会から、上の世代も下の世代もまざっている人間関係になります。誘おうにも、上司や後輩の年齢を正確に知らないので、誰が35歳なのか自信が持てない。そうすると話題にできません。対して学生は、基本的に同年齢の集団。『マジ!』シリーズは、ヨコのネットワークが強いという特徴を持つ若者だからこそ効果が出た企画なのかもしれません」

若者のなかにも、元来のスキー・スノーボードやJリーグのコアファンはいる。そのコアファンが「無料」をきっかけにビギナーへ声をかけ誘いやすいという構図ができあがっていった。

「無料化」による
リスクはないのか

「1歳分」限定とはいえ、無料化するとなれば売上毀損リスクの懸念が生じる。当初も、そして現在も反発はあるという。それでも実施に踏み切れたのは、スキー場やサッカースタジアムが持つ構造的な特性が理由だった。

「スキー場やサッカースタジアムは、動員数が増減しても運営コストは大きく変化しません。リフトを動かしたり圧雪するコストは、滑る人が100人でも1000人でも変わらない固定コストといえます。もしこの企画により無料動員が増えても、赤字が膨れ上がる危険性はないと考えました。そしてそれ以上に、若者にリアルの楽しさを『体験してもらう』ことに価値は大きいと思いました。」

スキー場とサッカースタジアムの共通点は、大型設備であり、動員数に関わらず固定のコストがかかること。サッカーの観客の数が半分でも、満員とほぼ変わらない固定コストが発生する。逆にいえば、その余地が無料化を可能にした。

「雪マジ!19」を使ってスキー場へ行った回数(2012年度)
※単一回答(n=1334)

そしてその無料化は、対象会員たちの積極的な「リピート」を生んだ。たとえば「雪マジ!19」では、会員1人当たりの平均来訪回数は3.21回(昨季)。割合で見ても、56.6%の会員が2回以上ゲレンデを訪れていた。

「対象年齢のうちは何回行っても無料になるのが大切です。スキーもサッカーも、初めての人は1回目で楽しさを知るのは難しいですよね。うまく滑れなかったり、ルールが分からなかったり。本当の楽しさが分かるのは3回目あたり。でも、通常は、回数が増えれば費用がかさむため、本当の楽しさがわかる前に断念してしまう。

ただ、無料なら違うはずです。たとえ最初は楽しくなくても、『無料ならもう一回行ってもいいかな』と、ふたたび足を運んでくれる可能性が出ますよね。何度も行くなら、お金だけではなく時間の余裕も必要ですが、若者層は、お金もちではないですが、時間には余裕がある「時持ち(ときもち)」なんです。そしてリピートするうちに、面白さが分かれば、無料期間が終わっても来てくれると思うんです」

Jリーグに関しても、ファンになると、2割はアウェイゲーム(敵地の試合)を観戦しているというデータがある。たとえ最初は「Jマジ!20」の「無料」がきっかけで地元の試合を観たとしても、その後、何度か足を運んでチームが好きになると、やがて遠方のアウェイゲームに出かけるかもしれない。つまり、国内旅行の需要が喚起されることになる。そう考えれば、1年間の無料期間が持つメリットは大きいと見ることもできる。