可士和氏のアートディレクションは、企業や組織のトップと1対1で会話を重ね、問題点や狙いを整理することから始まる。

佐藤可士和氏が外出時に持つアイテム。最低限のものしか持たない。

「セブン&アイの場合は、広告のこともお店のこともあるけれど、まずはプライベートブランドから着手しようということになり、新しいロゴマークを作りました。最初から鈴木会長に『ロゴをつくってほしい』という言い方をされたわけではありません。頼まれたのは『セブン-イレブンをよくしてほしい』ということだけ」(可士和氏)

抽象的で漠然としたリクエスト。しかしこのような頼み方はユニクロの場合も同様で、柳井会長からの依頼は「世界戦略をやってくれ」の一言だった。

可士和氏はそんなとき「何をすればいいですか」とは聞かない。それを考えることが仕事だからだ。大きなプロジェクトではデザインに着手するのは最後の最後。経営戦略を考えるコンサルタントのように、何をすべきか考えるところから仕事が始まる。そのために必要なのが徹底的な対話だ。セブン-イレブンのときは上層部とだけでも30回以上ミーティングを重ねた。

「ミーティングというより僕がインタビューをする感じです。日本経済についてなど、大きな視野の話もする。鈴木会長に『コンビニは将来の社会にとって、どういうものになるんですか』という質問を投げかけたりもします」(可士和氏)

このような視野の大きな話から入るのは遠回りのような気もするが、可士和氏はそれを真っ向から否定する。

「それが1番の近道。人間は話すことで思考や情報が整理されます。鈴木会長も僕との対話の中でセブン-イレブンの40年の歴史を振り返ったりしているはず。対話を重ねると何をすべきかというゴールが見えてくる。ゴールの設定をすることは非常に重要。どこに行くべきかを共有することこそ、本当の意味でのクリエーティブな作業です。仕事がなかなかうまくいかない人は、ゴールが見えないまま走り始めてしまっているのかもしれませんね」