子供が生まれる前、2人で予定していたハワイ旅行を、可士和氏が「撮影が入ったから」とキャンセルしようとしたことがあったと悦子氏は述懐する。

佐藤悦子氏が愛用する手帳。

「それに私は大反対。『ちゃんと仕事をするためにも休むことは絶対に必要』と言い続けていたら、わかってくれるようになりました。私が佐藤からもらったものはたくさんあるんですが、もし私が佐藤に影響を与えたことがあるとすれば、それは休むことの大切さかもしれません。若いうちは徹夜が続いても平気ですが、そんな生活を続けていたらいずれ体調を崩すし、クリエーターとしても涸渇してしまう。そうなったらかえって仕事先に迷惑をかけてしまいます」

可士和氏が独立して個人事務所「サムライ」を設立したことも、働き方が変わるきっかけだった。広告代理店の仕事はスパンが短く不測の事態にその都度対応する必要もあるため、自分のペースを保つことはなかなか難しかったが、独立後に手がけるようになった長期的な企業のブランディングは、比較的、自分のペースで仕事が進めやすい。

加えて、悦子氏がマネジャーとしてサムライに参加し、お互いの役割分担が明確になったことも大きなプラスとなった。

「博報堂ではお金やスケジュールの管理も僕の仕事でした。いまは、それを事務処理能力の高い悦子が一手に引き受けてくれるので、僕はクリエーティブということに集中できる」(可士和氏)

「夫婦で同じ職場で働くのは大変でしょう、とよく言われるんですが、一緒にいる時間はそれほど長くない。今日なんか15分くらい(笑)。会社で仕事の話ができない日は、家で話すこともよくあります」(悦子氏)

長男が誕生したことも、2人の時間の使い方に変化を与えた。

「子供が生まれる前は、何かあっても夜中まで働けばカバーできた。でもそれはもう無理なので、『午後9時だけど今日は早く寝て、明日の朝3時に起きてからやろう』と、工夫するようになりました」(悦子氏)