06年の時点で149.1兆円あった積立金は、11年度末には112.9兆円まで減る。この5年間で40兆円程度を取り崩したことになるが、なぜ積立金を取り崩さなければならないのか。それは基礎年金財源の半分を国庫負担として税金に頼っている状況があるからだ。

国庫負担率は09年に3分の1から2分の1に引き上げられた。だが引き上げ分の2.5兆円分の財源のめどがつかず「積立金の取り崩しで賄っているのです」(鈴木教授)。

11年度は「埋蔵金」でなんとか財源を確保したのだが震災復興の1次補正予算に流用され、やむなく積立金の取り崩しが行われている。

しかし積立金の取り崩しは2.5兆円にとどまらない。毎年5兆円から6兆円ずつ取り崩され、11年度は9兆円に膨れ上がっている。国庫負担率を引き上げたのに、なぜ不足しているのか。鈴木教授によると、9兆円のうち6兆円はマクロ経済スライドが発動できないこと、保険料収入が低いことなどが原因だという。

「高齢者に配慮」の恐るべきツケとは

デフレ下でマクロ経済スライドが発動されていれば年金給付額が減額されるはずだが、政府は「高齢者に配慮する」として、00~02年度のデフレに伴う引き下げを見送った。その後も物価の低迷が続いたことから、11年度は本来の水準よりも2.5%高い「特例水準」になっている。このことが行政刷新会議の「提言型政策仕分け」で取り上げられ12年度から3~5年かけて解消していくことになった。

特例水準の見直しは積立金取り崩し問題に対しては有効だが、これで年金が抱える深刻な問題が解決に向かうわけではない。深刻な問題の元凶は、現役世代の納めた保険料が「積み立て」られず、リタイヤ世代に即給付されてしまう「賦課方式」にあると鈴木教授は指摘する。

現役世代が多く、高齢者が少ないピラミッド型の人口構成であれば、現役、リタイヤどちらの世代にとってもこの方式が得なのだが、現在の逆ピラミッド型では少数の現役世代が多数の老後の世代を支えなければならない。年金や健康保険などの社会保障費は保険料だけではまかなえず税金も投入されているので、現役世代には2重3重の負担がかかっている。

「この場合に重要になるのは、現役世代という支え手に対して高齢者がどれくらいいるかという割合です。現在は3対1ですが、23年には2対1になってしまう。団塊の世代という大きな“こぶ”が高齢者側に回るからです」(鈴木教授)