妻はやなせに「私、駄目かもしれない」

やなせは手術を受けて入院中の暢に、医師の言葉として「悪いところは全部切りとったから大丈夫」と嘘を伝えたが、暢には通用しなかった。

「私、駄目かもしれない。覚悟はできているから本当のことを教えてね。整理しておかないと、あなたじゃ解らないから」

暢がそう言っても、やなせはやはり「すぐ退院できるよ」と伝えた。だが、やなせの絶望は深く、漫画家仲間の会で一言も発言せずにいたとき、異変に気付いて声を掛けてくれたのが、『アリエスの乙女たち』『天上の虹』などで知られる漫画家の里中満智子だった。

里中は、自身もがんだったが民間療法の丸山ワクチンを打ち続けて完治したと言った(丸山ワクチンは1970年代から80年代にかけてがん治療薬として注目を集めたが、医学的根拠はないとされる)。丸山ワクチンは東京女子医大では効果がないと言われたが、ワラにもすがりたい思いのやなせは投与を頼み込み、1カ月もすると暢はいったん歩けるようになり、退院。病院から徒歩30分の自宅まで歩いて帰ったという。