黒い法服を身にまとい、謹厳実直でドライな印象を持たれがちな裁判官はどんな人たちなのか。元裁判官の高橋隆一氏は「裁判では、一般の人には到底納得できないような判決になることがしばしばあります。というのも裁判の基本は『疑わしきは罰せず』だからです。でも裁判官も人間です。情にほだされてしまう時もあれば葛藤もあるのです」という――。

※本稿は、高橋隆一『裁判官失格 法と正義の間で揺れ動く苦悩と葛藤』(SB新書)の一部を再編集しています。

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実娘への性的行為、無罪で炎上のワケ

2019年3月、名古屋地裁で父親の19歳の実の娘に対する性的行為が無罪とされる判決がありました。これに対して「納得できない!」「どうしてこれが無罪なんだ!」という批判の声がインターネット上で広がり、いわゆる「炎上」状態になったことを記憶している方も多いことでしょう。

このように一般の人には到底納得できないような判決になることが、裁判ではしばしばあります。というのも裁判の基本は「疑わしきは罰せず」だからです。

元裁判官という立場で考えたとき、担当した裁判官はその事件での実際の証言や関係者の供述など事件の全体とそれまでの経緯からして「同意がなかったとは言えない」という判断をしたのではないかと思われます。

なにぶん、この事件に関する記録を読んでいないのでうかつなことは言えませんが、裁判官が刑法を厳密に解釈するとこのように到底世間の人の一般常識では受け入れられない判決になることもあるのです。

おそらくこの裁判官も、世間からのバッシングは覚悟の上で「疑わしきは罰せず」の原則を貫いたものと思われます。