VIPたちの㊙エピソード

私はANA(全日本空輸)のCA(客室乗務員)だったころ、定期便のファーストクラスだけでなく、VIP専用チャーター便の担当客室乗務員をしていました。これらの便を利用するのは、天皇皇后両陛下や政権のトップに立つ方、国賓として招かれた他国の王族などに限られます。このような正真正銘のVIPのお世話をするうちに、気がついたことがあります。それは、超一流と呼ばれるような方であればあるほど、誰に対しても分けへだてなく礼儀正しい態度をとられるということ。そして感謝を表現なさる場合は、とてもシンプルで、かつ的確な言葉をお選びになるということです。つまり、どなたも素晴らしく「お礼上手」。

ANA元トップCA 里岡美津奈氏

超一流の方はとにかく周囲の人のことをよく見ていらっしゃる。何かしてもらったら、ただお礼を言うのではなく、相手がしてくれたことの裏側や本質を見て、それについて褒めてくださったり、お礼をおっしゃったりする。なんでもかんでも「ありがとう」ではないのです。

たとえばある年配の男性は、別れ際に必ず「今日は、○○してくれてありがとう」と、具体的にお礼を言ってくださいます。「今日はわざわざ足を運んでくれて、ありがとう」「今日は面白い話を聞かせてくれてありがとう」というように。これも相手をよく見ているからこそではないでしょうか。

超一流の方は、想像力も豊かなら表現力も豊か。タイミングも絶妙で、ここぞというときを逃しません。たとえば小泉純一郎元総理は、「ワンフレーズ・ポリティクス」と称されるほど、短いけれど印象的な言葉をお使いになる方でしたが、実際にお会いしてもそれは同じ。瞬間的にポンと短い言葉を口にされるのですが、それがとても心に残るのです。

当時、小泉総理のチャーター機のアテンドを務めさせていただいたときのことです。離陸後、私が新聞各紙をお持ちすると、小泉総理は2、3紙に目を通されました。そのあとしばらく秘書の方とお話しなさっていたのですが、どことなく話を切り上げたいようなご様子です。そこでタイミングを見計らって、すでに読まれたものを除いた新聞を何紙かお持ちしてみました。ただし、お話し中なので声はかけず、黙って「よろしければ……」というようにお見せしただけです。小泉総理は新聞を手に取られると、一瞬、会話を中断してこちらを見て、「ほう、すごいね、きみ」と言ってくださったのです。私はにっこり笑って黙礼し、何も言わずにその場を離れました。もちろん、私のしたことは全然すごいことではないので、過大な評価をいただいたのですが、こちらの配慮に気づいてくださったことを、とてもうれしく思ったものです。