狙いは「自動車を使いたい」と思う人を増やすこと

2月5日、トヨタ自動車が新しい自動車ビジネス「KINTO(キント)」を発表した。契約者が一定の金額を支払い、気に入った自動車を一定期間利用するもので、トヨタは“愛車サブスクリプションサービス”と呼んでいる。

トヨタ自動車の定額制サービスについて、記者会見で説明する事業会社「KINTO(キント)」の小寺信也社長(左)=2019年2月5日、名古屋市中村区(写真=時事通信フォト)

この事業は、世界有数の自動車メーカーであるトヨタの転換を意味する。従来、トヨタは自動車メーカーとして良い車を作り、それを販売することによって成長を遂げてきた。それがトヨタのビジネスモデルだ。この発想は、今後も重要であることに間違いはない。

ただ、わが国では、少子化と高齢化に加え人口減少が進む。それでは自動車の販売台数が右肩上がりで推移することは見込めない。その状況でトヨタが生き残るには、よい車を作って売ることに加え、負担が少なければ自動車を使いたいと思う人を増やすことが重要になる。

そこに重要な転換がある。トヨタは従来型の自動車製造・販売のビジネスモデルに加えて、サブスクリプション・ビジネスを構築することで、持続的な成長を目指そうとしている。トヨタによる2つの戦略への取り組みは、他の自動車メーカーにも無視できない影響を与えるだろう。

買い替えサイクルは「8.7年から13年超」に長期化

トヨタが「KINTO」を開始する理由として、特に大きいのが新車販売台数の減少だろう。

1990年代、わが国の新車販売台数(登録車と軽自動車)の合計は580万台程度だった。これが2018年には520万台にまで落ち込んでいる。

加えて、自動車ユーザーの買い替えサイクルが長期化している。自動車検査登録情報協会によると、1980年代前半の平均使用年数は8.7年だった。それが2018年には13年超まで長期化している。

乗り換えサイクル長期化の背景には、わが国の自動車生産技術が向上し、自動車の耐久性が高まったことがある。また、1980年代後半に発生した資産バブル(株式と不動産価格の急騰)が崩壊した後、わが国経済が長期低迷に陥った影響も大きい。実質ベースでの賃金が伸び悩む中で、多くの人々が自動車の購入を手控えた。

新車販売台数が伸び悩む中、トヨタは自動車の所有に加え、利用する層を増やすためにサブスクリプションに着目した。これは、気軽に車種を変えることのできるリースと呼んでもよいだろう。同時に、トヨタがサブスクリプションに進出したことは、自動車メーカーが、従来とは異なる、新しいビジネス領域に踏み込んだことに他ならない。

海外ではインドをはじめ人口が増加している新興国では、自動車への需要は高まっていくだろう。そうした市場において、トヨタは現地のニーズに合った新車を開発し、シェアの拡大を狙っている。トヨタは自動車の製造・販売戦略に加え、サブスクリプション戦略を進めることで、自社の経済圏の拡大を目指していると考えることができる。