購入の敷居を下げれば、ユーザーはまだまだ増やせる

つまりトヨタは、よい車を作り販売することに加え、車のあるライフスタイルや生き方を創造しようとしている。サブスクリプション・ビジネスへの取り組みとともに、トヨタを“自動車メーカー”としてとらえていくことは適切ではなくなる。他の企業や業種でも、既存のビジネスモデルや業種の境界は薄れていくだろう。

自動車を所有するには、多額の資金が必要だ。特に、若い世代にとって、数百万円を負担することへの抵抗感は強い。同時に、子供が生まれたタイミングなどで「やっぱり、車があると便利だ」と痛感する。子供が生まれ自動車を使うようになったことで、週末の時間が楽しくなり、もっと良い車がほしいと考える人もいるだろう。トヨタは、車を使うことで生み出される体験・感動を醸成しようとしている。

自動車には人々の生き方(文化)が反映される。さらに、自動車は、わたしたちのライフスタイルを形成する。「車は楽しい」と実感してもらうためには、自動車を手に入れるための敷居(購入資金の負担、メンテナンス、保険などのコスト)を下げることが重要だ。エントランスにおける費用が下がれば、車を身近に感じる人が増える。そのためにトヨタはサブスクリプション・ビジネスに進出した。

一概に「高い」とは言い切れない

トヨタのサブスクリプション料金に関しては、「高い」との指摘もある。同時に、自動車との付き合い方には、私たちの情緒も影響する。「スピードを体感したい」「移動の時間を快適にしたい」「格好をつけたい」など、自動車に乗る理由はさまざまだ。レクサスが欲しいと思っている人は、夢が手に届くところまで来たと感じるだろう。一概に金額の多寡だけでは評価できない。

トヨタは、“自分の車”に乗ることへの敷居を下げ、普及モデルから高級車に至るまでの自動車と人々の“距離感”を縮めることを重視している。今後、利用が進むとともに、対象車種の拡充や付加的なサービスの提供など、トヨタはサブスクリプション・ビジネスを強化していくだろう。それが同社の成長にどのような影響をもたらすか、実に興味深い。

(写真=時事通信フォト)
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