近年、現代医療にも積極的に取り入れられ、再評価されつつある東洋医学。「健康診断」「予防医学」の観点からも注目される独自の診察手法を学びに、北里大学東洋医学総合研究所の「漢方ドック」へお邪魔した。

調べるのは虚実、寒熱、気血水

1972年、日本で最初に東洋医学の臨床・研究機関として設立された北里大学東洋医学総合研究所では、6年前に「東洋医学ドック」を開設。この春に「漢方ドック」と改称し、東洋医学の考え方に基づいた健康診断を行っている。「2000年前の中国の漢方や鍼灸の医書には『上工は未病を治す』と書かれています。まだ病気ではないけれど、そのまま放っておいたら病気になる状態『未病』を見つけ、早めに手を打つのが上手な医者(上工)という意味の言葉です。このように、もともと東洋医学には、現代風に言えば『健康診断』や『予防医学』という考え方があるのです」と話すのは、同研究所の石毛達也氏だ。

「何となく体調不良が続いているけれど、現代医学の検査では異常が見つからないという人も多いと思います。『漢方ドック』では、こうした患者さんの自覚症状に寄り添いながら、東洋医学の視点から診察。『未病』を発見して、その改善のためのアドバイスをしています」

現代医学の健康診断では、血液検査や尿検査、X線検査などの結果をものさしに健康状態を判定するが、「漢方ドック」では「虚実」「寒熱」「気血水」という東洋医学の3つの考え方をものさしに体の状態を診ていくという。

「東洋医学では『中庸』、つまり偏りのなさを重視します。『虚実』『寒熱』『気血水』の、それぞれのバランスが崩れた状態を『未病』ととらえます」

東洋医学の3つの健康バロメーター「虚実」「寒熱」「気血水」

「虚実」は患者の基本的な体力や病気に対する抵抗力を表す概念で、体力や抵抗力が過剰な状態を「実証」、体力や抵抗力が低い状態を「虚証」という。

「寒熱」は体の状態を表す考え方で、たとえば手足の冷えや下痢などの症状が見られる状態は「寒証」、のぼせや手足のほてりの症状がある状態を「熱証」ととらえる。また、顔はほてっているのに足は冷える、といった「寒証」と「熱証」が同時に出る状態を「寒熱錯雑」という。

「気血水」は体を構成するもので、「気」は「元気」や「生気」の「気」で、目に見えないエネルギーのこと。「血」は赤色の液体、血液のことで、「水」はリンパ液やだ液などの透明な液体のこと。東洋医学では、気血水のバランスを診ることによって心身の状態を評価するという。

「気血水のそれぞれが不足している『虚』、流れが滞っている『滞』など、7つの状態に分類して診断します。たとえば慢性的な肩こりは、精神的ストレスや運動不足、睡眠不足による『気滞』や『●血(おけつ)*』が原因である場合が多いですね」

*●=やまいだれに於