過度の「政治的公平性」配慮から一歩踏み出したテレビメディア

小池百合子さんの勝利で終わった東京都知事選挙。今回の都知事選では、メディアの報道姿勢が、参議院議員選挙のときと明らかに異なった。積極的に報道するようになったね。特にテレビ。テレビメディアは、政治的公平性というものにとにかく配慮して、これまでは選挙が始まった途端に報道しなくなる状態だった。まあこれはある意味無理もない。国政選挙では、政党も当落をかけて必死になっているから、メディアの報道状況には敏感になっている。だからちょっとしたことでもクレームを入れる。

やっぱり選挙の帰趨はテレビメディアが握っているのが現状だね。テレビの影響力は、最近では弱くなったと言われているけど、それでも他のメディアと比べて抜きんでている。民主国家においては有権者がすべてを決するけど、有権者の判断要素として、「感情」の占める割合が高いのは否定できない現実。

そして理性に訴えかけるのが得意な新聞メディアに対して、テレビメディアは感情に訴えかけるのが得意。今回はテレビメディアが選挙戦を大きく扱ったので、選挙の流れが大きく変わったのは間違いない。

まず、従来の選挙報道レベルのテレビ報道であれば鳥越俊太郎さんが当選していただろうね。ところが今回、鳥越さんは、テレビに映れば映るほど、有権者に悪感情を与えていった。鳥越さんは、これまでテレビメディアで好印象のイメージを世間に広めてきたのに、今回の選挙戦の報道では悪印象を広げた。

いやー、面白い皮肉だよ。僕もそうだけど、テレビに出演していたということは選挙でかなり有利になる。大きな選挙になればなるほど、知名度が重要なポイントになってくるので、世間に名前を知ってもらっているということは大変なアドバンテージ。僕が38歳で大阪府知事に当選したのも、それまでテレビに出演していたおかげでしょう。鳥越さんもそう。

鳥越さんの知名度はテレビ出演によって上がった。だからこそ、今回、民進党などが鳥越候補で勝てると踏んで、鳥越さんを応援した。つまり鳥越さんはテレビ出演のおかげで都知事選の候補になれた。ところが、落選したのもテレビのおかげ。人間ドラマを感じるね。

断っておきますが、僕は鳥越さんの人間性全般について、とやかく言える立場ではありませんし、言うつもりもない。鳥越さんと私的なお付き合いがあるわけじゃないし、しっかり話したこともない。「会ったこともないのに、俺の何がわかるんや!!」とこれまで言い続けてきた僕が、ここで鳥越さんの人間性全般について批評したら、それこそ特大ブーメランとして戻ってきてしまう。だから、僕が批評するのは、都知事候補としての人間性の部分のみ。

鳥越さんは、テレビメディアを通じて記者としての人間性は高評価に映った。ところが都知事候補としては悪評価に映った。そういうもんなんだよね。鳥越さんは記者のように、自分以外の他を批判したり、追及することは得意。そして世間が感じるところの正義を語ることは得意だった。ところが、自分を語ることはまるっきしダメだったね。

政治家は究極のところ、自分を語る仕事。鳥越さんの、これまでの好印象だった記者のイメージをもって、そのまま都知事に相応しいと判断されそうだったところを、今回の選挙戦テレビ報道が打ち崩した。今回は、テレビメディアはしっかり機能していたと思う。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.17のダイジェスト版です。

(撮影=市来朋久)
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