●経営は、損得で判断するのではなく、善悪で判断することが大事。

――日本記者クラブでの講演 2011年2月8日

(AFLO=写真)

企業を経営する場合、損得で判断するのが、一般的だろう。しかし、稲盛は「善悪で判断することが大変に大事だ」と話している。その善悪というのも、自分にとって善いか悪いかということではなく、「人間として、善いか悪いか」を考える。それはとりもなおさず、子供の頃に親や先生に教えられた「人を騙してはいけない」「嘘をついてはいけない」というようなプリミティブな人間として守らなければいけないことを判断の基準とすることだ。

稲盛は「経営の最高幹部でも、非常に幼稚そうに見えるそうした規範をないがしろにして、判断を誤ることが非常に多い」として、「人間としてベーシックな倫理観を身に付けておくこと」の重要性を訴えている。

●おれが信じられんと言うのなら仕方ない。だが、辞める勇気があるなら、だまされる勇気を持ってくれないか。

――『稲盛和夫のガキの自叙伝』日本経済新聞出版社

京セラを設立して3年目の春、前年入社した高卒社員11名が要求書を突きつけてきた。朝早くから深夜まで働いていた者たちだ。「毎年の賃上げ何%、ボーナスは何カ月」と約束してくれなければ、会社を辞めるという。稲盛は11人と自宅で三日三晩、ひざを付き合わせて話し合った。設立間もない中小企業のことで、11人の要求に応じる約束はできない。最後は「おまえを裏切ったら、おれを刺し殺していい」と言って、納得させる。このことで、稲盛は「社員の一生」という重荷を背負っていることに気付いた。

●孫さんの言動を、私は大変ハラハラして見ています。

――『プレジデント』2006年1月30日

ソフトバンク社長の孫正義は、盛和塾の初期の塾生だった。盛和塾とは、稲盛が中小企業経営者のために講話をし、相談に乗る会合である。孫は、いつも1番前の席に座り、稲盛の話を懸命にノートに取っていた。稲盛から見ると、当時の孫の経営手法は危ういものに思えたのだろう。孫が時価総額経営を標榜していた頃、同じ飛行機に乗り合わせた稲盛は、孫にコンコンと経営の志を説いたことがあるという。