聖地エルサレムを巡る衝突

現在、世界情勢を左右する戦争は主に2つ。

ひとつは長年、武力衝突を繰り返してきたパレスチナとイスラエルとの戦いであり、もうひとつは2022年以降のロシアとウクライナの戦争だ。いずれも土地や権益を巡る争いであり、宗教自体が戦争の引き金になっているわけではない。しかし、そこに宗教が入ることで、争いを複雑化させている。

まずパレスチナ問題。パレスチナには、世界を代表する宗教の聖地エルサレムがある。イスラム教、ユダヤ教、キリスト教、この3つの宗教の信者にとってエルサレムは、かけがえのない聖地である。

イスラム教にとっての聖地とは、ムハンマドが昇天したと伝えられる場所に建つ「岩のドーム」。メッカ、メディナに次ぐ第3の聖地としての位置付けである。

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ユダヤ教は、かつての神殿の一部であった「嘆きの壁」が、世界最大の聖地になっている。神殿には「モーセの十戒」が刻まれた石板が収められた「契約の櫃」があったとされるが、紀元前にローマ軍によって神殿が破壊された。

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キリスト教にとっては、イエスが十字架に架けられ、処刑された場所に建てた聖墳墓教会がある。

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この地域の歴史を紐解くと2000年前、パレスチナはユダヤ人の王国であった。それがローマ帝国に滅ぼされると各地に逃れた。のちにパレスチナにはアラブ人が暮らすようになる。ユダヤ王国に生まれたイエスは、神の福音を伝えるために宗教活動を始める。だが、ユダヤ人聖職者らによって処刑されてしまう。

イエスの死後、教えはヨーロッパに広がっていく。だが、イエスの処刑を恨む人々によってユダヤ人への迫害が起きる。19世紀末になってパレスチナにユダヤ国家を建設しようとするシオニズム(祖国復帰)運動が展開される。

ユダヤ人はさまざまな迫害の歴史を経て、第二次世界大戦後、この地に国家を樹立した。それがイスラエルである。だが今度はアラブ人が反発し、泥沼の中東戦争へと発展。1993年のオスロ合意に基づき、ヨルダン川西岸とガザでのパレスチナ自治が始まった。

だが、双方の武力衝突は止むことはなく、現在、イスラエルとパレスチナ武装組織ハマスの間で報復の連鎖が続いている。この紛争は、聖地の支配権を巡る宗教的な対立と、民族的な怨嗟、欧米を中心とする第三国の思惑などが、複雑に絡み合う構造になっている。