富裕層がやっている相続税対策のカラクリ
高齢富裕層によるタワマン購入の多くに、節税対策の意図があると先述したが、そのカラクリにも触れておこう。
相続が起こった場合、土地は路線価評価(国税庁が毎年定める道路に面する土地の1平方メートルあたりの単価から算定する方式)となる。タワマンは、同じ敷地内に大量の住戸があるため、持分とされる土地面積が小さくなることが節税対策となるポイントだ。
たとえば、敷地面積2万平方メートル、総戸数1000戸、平方メートルあたりの路線価が56万円のタワマンを例に取ろう。このタワマンの平均にあたる23坪(76平方メートル)の住戸を1億円で買い、その内訳は土地に7000万円、建物に3000万円とする。
この住戸の土地所有面積は1戸あたりわずか20平方メートル(2万平方メートル÷1000戸)ほどという計算になり、土地評価は約1100万円(20平方メートル×56万円)になる。
建物については固定資産税評価額で約2000万円だとすると、合わせた評価額は3100万円となる。現金で1億円を持っていれば額面通りに課税されるが、タワマンにしておけば相続税の計算のもととなる評価額が7割も圧縮されるのだ。
おまけに借入金額は相続評価額から差し引くことができるため、購入資金を借入金で充てることによって、さらに評価額を圧縮する方法もある。
「億ション」の相続税がたったの12万円
国税庁の資料には、東京、福岡、広島でのマンションの実例が掲載されている。東京都内にある43階建てのタワマンの例では、23階67.17平方メートルの住戸の実勢価格(実際に売買される取引価格/時価)が1億1900万円であったのに対して、相続税評価額は3720万円と、実勢価格は評価額の3.2倍にもなっている。
相続には基礎控除があり、3000万円+600万円×法定相続人の数で計算されるため、相続人が子1名であれば3600万円が引かれ、課税価格は120万円だ。仮にマンションだけが相続財産だとすれば、1000万円以下の相続税率は10%であるため、税金支払いはわずか12万円ほどで済む。
同資料では福岡のマンションで乖離が2.36倍、広島のマンションで2.34倍など、実例を示しながら相続税評価額が実勢価格と乖離しているさまを掲げている。
マンションの乖離率の平均は2.34倍と言われており、タワマンに限らず、マンションは現金で持つよりもはるかに税負担の少ない金融商品のような役割を持っていることがわかる。