徹底した「反官僚主義」
時代は超がつく好景気だ。彼からすれば高い給料とボーナス、引く手数多の民間企業に比べて、国家公務員は薄給と給与に見合わない過酷な労働しかない職場に見えた。民間に行くのが当たり前の時代であるにもかかわらず、学生時代の特権とも言えるような遊びに興じることもなく高校時代からの習性のように公務員試験に勤しんでいる。
民間企業の就職活動をしていた彼は、ある日、同級生になぜ公務員になるのか尋ねてみた。
「だって、恩給ももらえるし、天下りできるでしょ」
「それに若い時だって、民間に威張れるでしょ」
どこまで本意かはわからないが、この答えに、若き日の玉川はなんと利己的な動機なのかと愕然とする。
高い志を持った者がいたとしても、多数派がこれでは少数派はやがて染まっていく。こんな動機で入省する連中が、国の政策を動かしていいのか。個人の小さな経験から、官僚への不信感を募らせた玉川は、やがてテレビの力を使って官僚と闘うことになる。
野党政治家タッグを組み、高視聴率を記録
現役テレ朝社員が述懐する――「ちょうど1990年代後半~2000年代の前半だったと記憶していますが、玉川さんは自分が担当していた番組で、自分のコーナーだけでいいからリポーターまでやりたいと言い始めました。自分が取材したことを自分で最後まで伝えたいということです。
当時のワイドショーはリポーターとディレクターが一緒に取材に行き、リポーターがスタジオで報告するシステムが主流でしたが、玉川さんはディレクターだけで終わりたくないと言ったのです。一人二役で自分のネタを、自分でリポートしたいという思いが強かった。予算も浮くからということで最初は試しで始めてみたのです」
そのとき、彼がターゲットにしたのが官僚だった。
当時民主党のホープだった枝野幸男(現在は立憲民主党)や、のちに名古屋市長から日本保守党初の衆院議員となった河村たかしらと連携して、ワイドショーを舞台にして官僚の利権を追及した。
タッグを組んだ枝野は「霞が関」に建設予定の新庁舎地下にプールを作る計画を批判し、官僚を論破するシーンは昼の帯番組「ワイド!スクランブル」で6%を超える視聴率を記録した。
時に、映像は言葉以上に文脈を雄弁に伝えるツールになる。現場で得た実感をスタジオに持ち込み、熱のこもった口調で怒りをつけくわえれば強力な特集が出来上がっていく。玉川は著書の中で、官僚を「ウイルス」やがん細胞に喩えている。
ウイルス最大の悪行である「無駄遣い」を検証し、視聴者に投げかける――。玉川の基本的なスタンスと闘い方は約20年前には完成していた。一連の官僚批判は大きな反響を呼び、玉川は一つのポジションを確立した。