事前に主治医から「アブラキサン」は副作用が強く、毛が抜け落ちる可能性が高い、ほとんどの人が吐き気に襲われると説明を受けたが、私はすでに毛は薄くなっていたし、我慢強い質なので吐き気も乗り越えられるだろうと楽観的にとらえていた。実際、点滴投与を終えた時点ではなんともなかった。しかしその翌日、容態が急変した。
想像を絶するほど気分が悪くなり、食欲はたちどころに失せた。
驚くほどの速さで生気がなくなり、立っていることもままならない。
横たわっても自分が刻一刻と衰弱しているのがわかった。最悪だったのは2日後の29日だった。寝込んでから苺を3粒口にしただけの体は弱り切っていて、喋ることさえできなくなっていた。
そればかりか思考能力が失せ、家族の質問に対して一応は「うん」とか「はい」とか答えていたようだが、その実、頭は働いていなかった。
ただ人生の中で初めて「このまま死ぬんだな」と思ったことだけは覚えている。
正直な話、三途の川がくっきり見えたのだ。
どうしても半年は生きたい!
死の淵から救ってくれたのは一種の「気つけ薬」だった。
話は少し遡るが抗がん剤を投与した日の午前中に出演した『垣花正 あなたとハッピー!』の冒頭で、リスナーに膵臓がんステージⅣであることを報告した。
私のもとへは普段から毎日100通を超えるメールが届いていたのだが、がんの報告をして以降、届くメールの数が爆発的に増えた。
励ましと共に、がんの治療法について、とてつもない種類の情報が寄せられたのだ。
私はベッドで朦朧としていたので対応していたのは妻とマネージャーだったのだが、寄せられた情報の中に、これは信憑性がありそうだと判断できるものがあり、一か八か、それに賭けてみようということになった。
患者が殺到すると対処しきれないという事情から、クリニックの名前も薬の名称も明かせないので、ここでは「気つけ薬」を点滴したと記しておく。