せっかくの虫歯治療がムダになるケースも

そのため、虫歯治療を開始するまでに、長い人では初診から2カ月くらいかかることがあります。治療が済んだら、一人ひとりに沿った口の中のメンテナンス(プロフェッショナルケア)を継続的に行います。

口の中を清潔に保つには、日常的な歯磨きなどのセルフケアに加えて、プロによる定期的なケアが欠かせません。虫歯と歯周病はどちらも「バイオフィルム」の中の細菌に感染して起こります。

バイオフィルムとは、表面に付着した細菌の集合体のことで歯垢(プラーク)もその1つです。セルフケアだけで歯に付着した全てのバイオフィルムを除去することはできません。そのため、定期的に歯科医院に通い、バイオフィルムの除去や、口の中の状態をチェックするリスクアセスメントが必要なのです。

口腔内環境がきれいではない状態で虫歯治療をすると、せっかく治しても再び虫歯になってしまう可能性があります。健康な歯を長く維持するためには、すぐに治療するのではなく、なぜ虫歯や歯周病になったのかを考え、個々の患者さんの環境に合わせた治療とメンテナンスが大切なのです。

しっかりとした予防医療の概念がある歯科医院ではすぐに虫歯を削ることはありません。治療に入るまでにある一定の検査やケアを行ってくれるような歯科医院が、長期的に患者さんのことを考えている医院と言えると思います。

自分の唾液は虫歯を治す特効薬

虫歯の原因となるミュータンス菌は、口の中で食べ物や飲み物に含まれる糖分を餌にして増殖します。その過程で酸を作り出すため、口の中が中性から酸性に傾きます。すると、歯の表面のエナメル質からカルシウムやリンが溶け出します。この状態を「脱灰」と言います。

脱灰は虫歯の始まりですが、唾液には、この脱灰を食い止める働きがあります。唾液とはつばのことを指します。これが「再石灰化」です。酸性に傾いた口の中を中性に戻し、溶け出したカルシウムやリンを再び結晶化させて、歯を修復します。この働きによって虫歯の進行が抑制されます。こうした唾液の力を「緩衝能」と言います。

また、唾液には、口の中の食べカスや細菌などの汚れを洗い流す自浄作用があります。川の流れと同じで、唾液の量が多いほど汚れを洗い流してくれます。したがって唾液量が多いほど口内の自浄作用が高くなるため、虫歯や歯周病になりにくく、口臭を抑えることもできます。

唾液には抗菌物質が含まれているため、細菌の侵入や増殖を防ぐ作用もあります。このように重要な働きをする唾液ですが、その力や量には個人差があります。そのため、歯磨きをしていない人でも、虫歯にならない人もいれば、虫歯になってしまう人もいます。

虫歯のリスクは一人ひとり異なるということです。そこで重要なのが、自分の唾液の力や量を知ることです。それによって、その人に合った予防が可能になります。つまりこの唾液が図表1の受け皿の部分に当たります。

受け皿(虫歯のなりやすさ)を変えずに床を拭き続けてきた(対症療法)のが日本の歯科治療。[出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)]

この受け皿が大きい人は唾液の緩衝能力が強く唾液量が多い人になり、この受け皿が小さい人は唾液の緩衝能力が弱く唾液量が少ない人になります。自分の唾液の力や量を明らかにするのが唾液検査です。